第33話 落ちてきた者

"……こんなことに"


"そうだ。お前達の乗っていたドラゴンが落ちた結果がこれだ"


見るからに育ちのいい少年は狼狽えていた。保護者らしい騎士然とした男も青ざめている。練兵場の周りの建物は軒並み吹き飛び、瓦礫の山だからだ。


"ここにはなんの罪もないリリパットと人間が暮らしていた。幸い、避難が間に合ったおかげで死者は出ていないが住居は滅茶苦茶だ"


"……すみません"


実際は暴走した三木にジメリをぶつけたことが原因だが、わざわざ言う必要はない。


"あのドラゴンはお前のか?"


練兵場に横たわる黒いドラゴンは怪我をして動けない内に望月が【テイム】してしまった。見ると今も望月はドラゴンの世話をしている。ついつい忘れてしまうが、望月は日本のトップエクスプローラーの一角なのだ。


"違います。ヴァレミアのです"


少年は騎士の方を見て言った。


"ヴァレミアとやら。お前のドラゴンはもうウチのに【テイム】されてしまったぞ。残念だったな"


"そんな馬鹿な!シュヴァルハッセはブラックドラゴンだぞ!!我々だって魔道具で制御していたんだ。そんな簡単にテイムされてたまるか!!"


こちらに気付いた望月が走ってやってきた。三木はまだ寝込んでいるというのに、こいつはもうすっかり元気だ。


「根岸、こいつらが落ちてきた奴等か?」


「ああそうだ」


「全くこいつらも災難だったな!私は何も覚えてないけどな!」


馬鹿笑いする望月をヴァレミアが凝視している。刻印を見ているのだろう。


「モチ太郎も大分元気になってきたぞ!」


「名前はモチ太郎に決まったのか?」


「本人も気に入ったみたいだぞ!」


望月が大声でモチ太郎と叫ぶと、ブラックドラゴンが首を上げて反応をした。気に入ったというのは本当らしい。


"名前はモチ太郎だそうだ"


"勝手に名付けるな!名前はもうある!シュヴァルハッセだ"


「望月、あのドラゴンの名前はシュヴァルハッセというらしいぞ」


「可愛くないな!却下だ!あの子はモチ太郎だ!」


落ちてきた2人に興味を失った望月はドラゴン、モチ太郎のところへ戻っていった。


"まあ、ドラゴンの名前なんてどうでもいい。重要なのはこれからお前達がどうやって償っていくかだ"


ヴァレミアの顔が強張った。


"治療までしてやったんだ。これから働いてもらうぞ。お前にも。この少年にも"


"私はなんでもする!この方は勘弁してもらえないか!?"


そう言ってヴァレミアは少年を庇うように抱き寄せた。


その少年の名はフィロメオ。この大森林の北に位置するゲンベルク帝国の第3皇子だ。

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