第16話 撤退戦

「ぬん!!」


団長がメイスを振り回すとリリパット達が吹き飛んだ。でも油断していると何処からでも矢が飛んでくる。


「そこ!」


気配を頼りにお返しの矢を放つと手応えあり!これで何体目だろう?結構なリリパットを仕留めた筈だけど、一向に数が減らない。


「どうなってんだ!本当にリリパットか!?」


足元から突き出された槍を蹴り上げ、ケインが剣を振り下ろす。肩に当たったけど浅い。こいつら、一撃で仕留めないと直ぐに引っ込んで回復してしまう。どんだけポーションを溜め込んでるのよ!


「気合いを入れろ!もう少しで抜ける筈だ!」


団長が声を張り上げて皆を鼓舞した。もう何人もの冒険者が矢や槍に倒れている。リリパットにやられるなんて信じられないけれど、侮っている場合じゃない。


「レベッカ、大丈夫か?」


ケインが前を睨みながら私を気遣う。


「私はなんとか。でも後ろからの気配が強まってるわ。急がないと」


工夫達に【暗視】持ちなんていないし、照明の魔道具の数も限られているせいで、どうしても彼等の足は遅くなる。置いて逃げるのは簡単だけど、そんなことしたら私達は帝国で活動出来なくなる。


周りの冒険者からも焦りが感じられる。早くここを抜けないと。ジリジリとした時間が続く。



######



「工夫達は無事か!?」


今までずっと先頭に立ち、一心不乱に進んでいた団長が後ろを振り返った。やっとリリパット達の包囲を抜けたのだ。


細い獣道だが、ここを遡って行けば第二キャンプ。第二キャンプは宿場にする予定なので整備も進んでいて冒険者の数も多い。そこまで行けばなんとかなる筈!


「レベッカ、追手はどうだ?」


あれだけ戦ったのに団長の声に疲れはない。本当、馬鹿げた人だ。


「ちょっと距離を取りながら追って来てるわ!警戒している感じ?」


「よし、好都合だ!一気に行くぞ!」


団長と数人が走り始めた時だった。彼等の前方から異様な気配。


「団長、何かいる!」


目を凝らすと、ゆらりゆらりと歩く小さな人影。またリリパットだ。


「リリパット一体だ!構わず行くぞ!」


団長は走りながらメイスを振りかぶる。


スポッ


団長の手からメイスが離れ、不自然な軌道で別の冒険者に直撃した。慌てて止まった団長の背中に後ろから来た冒険者の短剣が突き刺さる。


「えっ!?」


リリパットに矢を放つと、団長を刺した冒険者が何故かすっ転んで射線上に身体を投げ出した。脇腹に矢が刺さり悶えている。


「ケイン!何かおかしい!どうなってるの?」


リリパットはゆっくりと近寄ってくる。


「聞いてるの?」


隣に立つケインから反応がない。見ると唇を震わせている。


「ケイン!どうしたの!?何?」


「……だめだ。漏れる」


「どういう意味!?」


「……あああぁ」


えっ。この臭い。洒落にならない!意識が飛びそう。それでもお構いなしにリリパットは歩いてくる。


メリメリメリメリッ


周りの樹木が一斉に軋み始めた。やばい。倒れる。


「みんな逃げ──」


私は意識を失った。

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