第63話 新しいボス
「今回の襲撃により、同志播戸が命を落とした。彼は勇敢に戦った。しかし!サーカスの卑劣さはそれを上回った」
すすり泣くような声が聞こえる。あんな奴でも死ねば悲しんで貰えるらしい。
「今日、我々が無事に朝を迎えられたのは同志播戸のお陰である!我々はもう、彼と一緒に戦うことは出来ない」
悲しみが伝播していくのがわかる。ここら辺で一発、ぶちかまそう。
「だが、彼の意志を継ぐ事は出来る!死は恐れるものではない。本当に恐ろしいのは意志が砕かれることだ!英雄に善悪など関係ない!混沌に愛されし我々が語り継がれる未来は間違いなくある!共に綴っていこうではないか!カオスサーガを!!」
おおおおー!!!
祝勝会会場の食堂に響くのは怒声か歓声か。先の襲撃などなかったかのようにメンバー達は爛々と目を輝かしている。もしや【扇動】スキルを取得した効果が出ているのか。恐ろしいものだ。
「ほほほ。ボス。お疲れ様です。早速ですが第3会議室を取ってます。このままよろしいですか?」
ハイポーションをキメてなんとか動けるようになった富沢がひょこひょこと歩いてきた。
「ああ。決めなきゃいけないことが山ほどあるからな」
カオスサーガの上層部は富沢と目々野しか残っていない。権田にはポーションをぶっかけて外見と記憶だけ頂いた。富沢にもご退場頂く予定だったが、意識を取り戻したタイミングで早々に軍門に下ったので、そのまま幹部として置くことにした。まあ、黛が大鎌を突き付けていたので他に選択肢がなかったとも言える。
「目々野も呼びますか?一応幹部ですし」
「いや。いい。その辺は免除する約束だ」
「免除?」
「続きは中に入ってからだ」
第3会議室に入ると既に飲み物が用意されてあった。あの下手に気の利く金髪女だろう。
「まず目々野の件だ。奴には裏切りの見返りとして新体制では基本的に何もしなくてよいと言ってある。本当にやばい時以外はダラダラしててよいと」
「はぁー。前のボスが浮かばれませんねえ」
「全くだ」
「それをあなたが言いますかねえ」
「で、カオスサーガの今後の活動だが基本的にダンジョン攻略に専念してもらう。外部からの依頼は全て断れ」
「おやまあ。それは急ですねえ」
「これを見込みのある奴等に使わせてくれ」
マジックポーチを富沢に投げる。
「中身は?」
「宝物庫に溜め込まれていたスキルオーブだ。目ぼしいものは俺が頂いたが、それでもかなりのものが残っている。鑑定書もついているからよく考えて配ってくれ」
「大盤振る舞いですねえ」
「スキルオーブなんて眺めていてもただの石だ。英雄にはスキルが必要だ」
「先程の演説。正直痺れましたよ」
「【扇動】スキルは常時発動するのかもしれない」
「いえ、あれはあなたの……なんでもありません」
富沢が言い淀む。意外にロマンチストだな。
「しかしここが妖怪ダンジョンとはな」
カオスサーガが所有するこのダンジョン。出現するモンスターは全て妖怪なのだ。例えば第1階層は小豆洗い。あのコンテナの中には数百の小豆洗いがひしめいているのだ。想像するだけでもキツい。あのコンテナは絶対封印だ。
「協会管理のダンジョンに妖怪が現れるところはないですからねえ」
「その分、未知のドロップやオーブや魔剣、魔道具が見つかる可能性が高い。通常のドロップは既存の販路に流してメンバーに還元しろ。その代わり、レアドロップは俺が貰う」
「ほほほ。凄い意気込みですねえ」
「なんせレアもの動画はバズるからな」
「落武者チャンネル、今後も続けるんですか?」
「富沢、ソーシャルメディアの力を舐めるな。発信力は武器だ。あのチャンネルには既にとてつもない価値がある」
「よくわかりました。レアドロップは必ずボスに渡します」
「頼むぞ。あと、俺が権田の姿でここに現れるのは月に数回の予定だ。サーカスに対する復讐の旅に出る設定で行く」
「ほほほ!サーカスのメンバーの困惑する姿が目に浮かびますよ」
「たまに本当に襲撃するつもりだ。向こうにも緊張感が生まれてWIN-WINの関係だ」
「いえ、それは、なんでもありません。ああ、そういえば」
「なんだ?」
「召喚オーブってどうなりました?」
それはもちろん、落武者チャンネルで披露だ。
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