第35話 魔剣?

魔剣。それはスキルが込められた剣だ。例えば炎の魔剣ならその刀身に炎を纏わせることが出来る。


もちろんスキルを使った時と同じように体力は消耗するらしいが、単純な物理攻撃とは比較にならない効果があるという。


俺が今使っているショートソードは冒険野郎で買った数打ちだ。そろそろワンランク上のものに買い換えようと思っていたところでの魔剣の情報。これはチャンスらしい。


というのも、ある階層のモンスターハウスで出現する宝箱の中身には周期があるからだ。例えば一度、第8階層で魔剣が出たらしばらくは魔剣が続くみたいな感じだ。だから魔剣を狙うなら今!なのだ。しばらく忘れていたのだが。


そして第8階層。


残念なことに、似たようなことを考える人間はどこにでもいるものだ。魔剣は宝箱からでるアイテムの中ではかなり人気が高い。俺がモンスターハウスに辿り着いたときには何組もの順番待ちが発生していた。


モンスターハウスは中に入った人数×10体のモンスターが現れる。普通のパーティーは安全を第一に考えて構成されているので殲滅力はそれほど高くない。つまり、めちゃくちゃ待ち時間が長いのだ。


そしてその長い長ーい待ち時間。さっきから視線を感じる。オークキング騒動で生配信されて黛とのキャプチャー画像が広まったからある程度は仕方ないのだが、あまりにも無遠慮な視線。視線はある男からだ。


「何か用か?そんな熱っぽい視線を向けられても俺は応えられないぞ?」


主導権を握るために俺は先に声を上げた。


「な、何を気持ち悪いこと言ってるんだ!」


急に声を掛けられた若い男は狼狽える。


「おいおい。何故男同士だと気持ち悪いんだ?」


「何故って、気持ち悪いものは気持ち悪いだろ!」


「理解のないやつだ。で、何の用だ?」


男の首の刻印が目に入る。加護持ちか。厄介だな。


「お前、黛さんとどんな関係だ!?」


死神ちゃんではなく黛さんか。こいつ、黛の知り合いか何かか。


「奈々?ああ、向こうが勝手にくっ付いてくるだけだ」


「名前で呼ぶな!」


「向こうに頼まれて名前で呼んでるんだ。お前には関係ないだろ。お前は奈々の彼氏か何かなのか?」


「……ち、違うけれど、いずれ……」


「なんだ。ストーカーか」


周囲の目が男に集まる。男の顔が赤い。男は立ち上がり剣を構えた。


「取り消せ!」


周りのエクスプローラーに視線を送るが、誰も止めようとはしない。こいつもソロなのだろう。加護持ちだし。


「俺が取り消したところでお前がストーカーなのは変わらないぞ」


「違うと言ってる!だろ!」


若い男が剣を振り上げながら踏み込む。まさかここまで馬鹿だとは。サッと身を躱して足を掛けると男は勢いよく地面に転んだ。


「クソ!クソ!クソ!クソ!」


男は地面に転がったまま叫ぶ。


「クソ!クソ!クソ!クソ!」


なんだ。男の様子がおかしい。


「クソ!クソ!クソ!クソ!」


立ち上がった男の身体の周りにドロドロと粘性が高く黒い炎のようなものが現れた。明らかにやばい。


モンスターハウスの順番待ちをしていたエクスプローラー達が巻き添えを食わないようにすっと居なくなる。賢明な判断だ。


「黛さんは渡さない!」


おい、なんだこの展開は。魔剣はどこ行った。

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