第30話 舌打ち

「ちっ」


オークキング騒動中に購入した宝くじ、スポーツくじの類に高額当選はなかった。当たっても数万円程度だった。現状、ダンジョン内の性悪ムーブに対して恩恵が受けられるのはダンジョンの中の事象だけ、という結論だ。


あれ程に世間を巻き込んだ性悪ムーブだったにも拘らずこの結果だ。加護による宝くじ一等はどうやら難しいらしい。久々の敗北だ。


あのヨコチンだかハミチンだかいうYoutoberも自分でオークキングを名乗るようになって、商魂逞しい限り。結局俺がただ働きしただけだ。


「機嫌悪い」


向かいに座る黛に指摘された。顔に出ているらしい。


「それはそうだろ。見てみろ。これ」


俺はヨコチンがアップしたオークキング関連動画の再生回数を黛に見せる。


「4000万超え」


「そうだ。あの野郎、俺のおかげで爆益だ。俺は全く儲からなかったのに」


「有名になった」


「そのせいで俺の加護についての情報が出回ってしまった。釣りの神様改、性悪の神様の加護だ」


「知ってる?死神ちゃんと性悪男って同人漫画あるの」


「お前が描かせたんじゃないだろな?」


「違う。お願いしただけ」


「一緒だ!」


ファミレスの薄めのハイボールを煽る。全く酔わない。イライラが募るばかりだ。


「遅くなりました!パイセン!」


慌しくファミレスに入って来たのは和久津だ。黛を見て目を剥いている。


「死神ちゃんさんですよね?ご挨拶遅れました!和久津っていいます!根岸パイセンにはお世話になっています!」


「後輩ムーブさせてるの?」


「本当に大学の後輩なんだ」


「へー」


黛が興味なさそうに応えた。いや、興味ないのだろう。


「で、一体なんの用ですか?パイセン」


「ただの情報収集だ。今回の件、エクスプローラー界隈ではどのように伝わってる?」


「概ね掲示板とかに書かれていることそのままですねー。死神ちゃんさんかパイセンが加護の力でオークを操っていたって説が有力です」


「ふっ」


「どっちかというとヨコチンのオークキング襲名の方がネタとしては盛り上がってますね!本人は最初嫌がってましたけどマネージャーさんが機転の利く人で上手いことやった感じです!チャンネルの登録者数もどんどん増えてますね!」


「ちっ」


「今度中国の深圳ダンジョンにいってオークチャンピオンと闘うらしいですよ!オーク系最強を決める闘い!」


「死ねばいい」


「あと死神ちゃんさんとパイセンについては概ねお似合いのカップルって評判です」


「詳しく」


黛が食いつく。


「カオス系の加護持ち同士ってのと美少女とイケメンなんで死神ちゃんさんのファンも見守るしかないって感じです」


「お前、ファンいるのか?」


黛に聞くと、当然といった顔をする。


「2人を主題にした同人漫画もあるんみたいですよ?死神ちゃんと性悪男ってやつ知ってます?」


「ぷっ」


黛が吹く。


「ああ。ついさっき知った」


「ネットだと売り切れみたいなんで欲しいなら冬コミで並ぶしかないかもですねー」


「いらん」


「欲しいならあげる」


「ええ!死神ちゃんさん持ってるんですか?羨ましい!」


「和久津にはあげない」


「そんなぁー」


「同人漫画はもういい。新宿ダンジョンで何か噂はあるか?」


「オークキング関連以外はそんなに。あー、そういえば第8階層のモンスターハウスで魔剣が出たって書き込みはありましたねー。本当かどうかは分からないですけど」


魔剣か。面白い。

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