第29話 オークキング

「はあはあはあ」


隣を走るヨコチンスタッフの男性の息が荒い。そもそも撮影スタッフなんだからエクスプローラーと一緒にオークキングを追跡するの無理じゃね?って思うけど、必死に食らい付いて来ている。スタッフにここまでさせる田村さんは意外と怖い人なのかも知れない。


「みんな!」


後ろから声がして振り向くとヨコチンと田村さんだ。


「正直、すまんかった!」


ヨコチンが潔く謝った。流石だ!男らしい!


ヨコチンはみんなを追い抜いて先頭に立ち、オークキングを追走する。


「さっきは完全に油断していた。所詮はオークだと思って侮っていた」


ヨコチンの独白をスタッフの男性がしっかりとハンディカムにおさめる。そういえばヨコチンはいつの間にかヘルメットを脱いでいる。本気モードってこと?


「奴は今まで戦ってきた中で間違いなく最強だ」


ヨコチンは真っ直ぐオークの背中を見つめたまま続ける。


「俺は今までの全てを奴にぶつける」


スタッフの男性がヨコチンの正面にまわる。


「そして、勝つ!!」


うおおおおお!カッコいい!!!周りのエクスプローラー達も最高潮だ!


「ヨコチン!待って!」


田村さんが声をかけた。


「マップを見て!この先はずっと真っ直ぐで、左に曲ると行き止まりなの!」


「一本道のどん詰まりってことか?」


「そうよ。奴はもう逃げられない」


「よし。みんなペースを落とそう。ポーションや水分を補給して戦いに備えるんだ!」


ヨコチンの言葉にみんなペースを落として各々水やポーションを飲み始めた。俺も水だ。緊張で喉の渇きがひどい。


スタッフの男性はハンディカムのバッテリーを替えている。大事なところでバッテリー切れなんかになったら田村さんに叱責されるもんね!


「みんな、いいか?ここを曲がったら奴がいるはずだ。奴は狡猾だ。いきなり襲い掛かってくるかもしれない。防御系のスキル持ちと俺でまず突っ込んで行こうと思う。誰かいないか?」


ヨコチンの声に3人のエクスプローラーが応えた。いずれも屈強なタンクだ。


「よし!行くぞ!」


気合い充分でヨコチンと3人のエクスプローラー、スタッフが駆けていく!俺もその後ろから付いていくぜ!


「「「「えっ!」」」」


えっ、なになに!先行した5人が角の向こうで声を上げて固まっている。


「どうしたの?」


実質的なボスと化している田村さんが心配そうに聞く。


「いや、なんというか。見てもらった方が早い」


ヨコチンの話に皆が角の向こうを覗き込む。


「「「「えっ」」」」


死神ちゃんだ!それに男もいる。てか、根岸パイセンじゃん!なんで2人がいるの?!なんで敷物広げてピクニックしてるの?


「あの、ピクニック中すまない。こっちにオークが逃げて来なかったか?」


戸惑った様子のヨコチンが尋ねるけど、死神ちゃんはガン無視!パイセンもずっとスマホ弄っている。


「マントに王冠のオーク、オークキングなんだが」


「知らんな」


「そんな筈ないでしょ!これだけの人数で追って来たのよ!奴はどこよ?!」


田村さんが怒り始めた!やっぱり怖い人だ!


「何を怒っているんだ?腹が減っているのか?それとも女性特有のか?」


パイセンが煽る!いつものパイセンだ!本物だ!


「そんなわけないでしょ!!」


「奈々。どうやらみんなお腹が減っているらしい。まだサンドウィッチはあるか?」


「たくさんある」


「ほら、立ってないで座って座って。奈々、みんなにサンドウィッチを配ってあげて」


「わかった」


ちょっとちょっとちょっと!何この展開!てか、名前で呼んでるし!パイセンと死神ちゃんはどーいう仲よ!


「いや、俺達はオークキングを……」


そう言い掛けたヨコチンの首に死神ちゃんのデスサイズがピタリ。


「私のサンドウィッチが食べられないの?」


「頂きます」


ヨコチンが地面に座ってサンドウィッチを食べ始めた。みんなもそれに従ってサンドウィッチを食べ始める。田村さんも座って食べ始める。


"カツサンドだ。うまい"


"死神ちゃん、料理するんだな"


"てか、あの男、だれ?"


"あの男の人、自分の大学の先輩っす"


"死神ちゃんとどーいう関係?"


"わかんないっす。一緒にいるの初めて見ました"


"てか、この状況なに?"


"ピクニック!笑"


グループチャットが俄に盛り上がる。


「さて、俺達はもう行くから。みんな疲れているようだし、ゆっくりしていってくれ」


パイセンがみんなに声を掛けた。ヨコチンが立ち上がる。


「最後にもう一度聞くが、本当にオークキングは来なかったんだな?」


「ああ、そういえば」


パイセンはそう言いながらマジックポーチから王冠を取り出し、ヨコチンの頭にかぶせた。


「ここにいるじゃないか」


パイセンと死神ちゃんは怒りで動けないヨコチンを尻目にさっと立ち去ってしまったのだった。

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