右から二番目の夏

umekob.(梅野小吹)

プロローグ

プロローグ「 I never want to grow up. 」

 あれは、あまりに眩しい花緑青はなろくしょうの空が、つんと目に染みた夏だった。



 白い入道雲と、降り注ぐ蝉時雨せみしぐれ。ラムネ瓶に閉じ込めた硝子玉には、朗らかに笑う君の顔が映っている。


 二〇〇四年。俺達はちょうど十歳を迎える歳だった。

 そして、その日は君の十回目の誕生日。


 夏休みの真ん中で迎える事になる君の誕生日は、学校で祝う事が出来ないからと、クラスメイトをかき集めて「ひみつの秘密基地」で開催される事になったのだ。



 ──お昼の十二時、ネバーランドに集合な!



 ネバーランド。

 秘密基地と称してたむろしていた山奥の古い空き家に、俺達はそんな名前を付けていた。


 理由は、あの山小屋が〝子どもしか入っちゃいけないひみつの秘密基地〟だったから。童話のピーター・パンに登場する「子どもしか行けない星・ネバーランド」から、その名前をもらったのである。


 あの日、俺達はまだ子どもだった。

 大人になんてなりたくなかった。

 子どものまま君の手を取って、子どもだけが行ける秘密の星へと、その足を踏み入れた。


 けれど、あの日──冷えたラムネ瓶を満たす微炭酸の泡みたいに、しゅわりと弾けて透明に輝いていた、夏の日。

 甘いラムネの瓶は地面に落ちて、音を立てて砕け散った。


 瓶の残骸は妖精の粉。

 ネバーランドは子どもの星。


 あの時大人になれなかった君だけが、今でもまだ、〝右から二番目〟に輝く星の中に囚われている。


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