半端な世界で、半端に志す。

@GUNPO_tal

第1話 夢だと思いたいほどの現実

砂嵐が吹き荒れる。その風は強すぎて、人の身体など吹き飛ばしてしまうくらいに。

でも俺は耐えながら足を動かしていた。

ここが何処かすらもわからないが、一つだけわかったことがある。

見事に敵の罠に嵌ったということだけ。

砂が顔に当たる度、思考力を掠め取っていく。


しかし、こんなことも思う。

ここは自分が作り出した世界で、勝手に自分で嵌り、勝手にやられたと滑稽に思っているだけではないだろうか?

夢かも現実かもわからない此処で俺はただ歩く。

いずれ現れるであろう、出口を目指して。



ーーー


いや夢だった。嫌な夢。

目が覚めた。

時計の針はしっかり、8時を指している。

ちなみに、8時とは。

学校確定遅刻である。

「あーしくった。もう遅刻してんだし、休んじゃうか」

俺、檜山啓治は学校をサボることにした。

よし、今日くらい掃除でもするか。


早速俺はテーブルに載っている全ての物をゴミ箱へポイした。

しかしまあ、変な夢も見る物だな。

砂嵐に閉じ込められる夢とか普通に地獄すぎる。

掃除をしつつ、夢について俺なりの考察を述べる。

疲れてんのかな俺。でも夢の中ですら疲れるとか相当疲れたがりかも。

などど馬鹿なことを考えてるうちに、昼飯の時間となった。


「あー、冷蔵庫の中なんもねえ」

いつも家を開けている両親なので期待はしていなかったが、やっぱり空のままだった。

まあ、両親とはあんま合わないので、まず冷蔵庫は綺麗なままなのだが。

これが複雑な家庭ってやつか。

とりあえず、飯は食いたいので、近所のコンビニに行くことにした。


「あー暑い」

今日は絶好の夏日。

太陽は俺を溶かす勢いで照り続ける。

そう遠くはないコンビニですら、家に戻りたい衝動を与えるのだから、太陽様ってすごい。


「はあ、魔法とかで冬とかにできないかなあ」

それこそ夢みたいなことを呟き出す。

しかしそう願っても尚、暑さは一切逆転しなかった。

はあ、さっさと買い物済ませちまうか。

なんやかんやで、コンビニに




つかなかった。

何かがおかしい。

どこまで歩いても、コンビニに付かないのだ。

「変だな、道は合ってる筈なんだが」

次の瞬間、曲がった先の景色は砂嵐へと移り変わる。

俺は戦慄した。いやしなきゃいけないと思った。

疲れているとも思った。思考が止まった。

何を考えても、何を考えついても、何をしようとしても。

目の前の砂嵐は、一切合切変わらないのだから。


仕方がないので、砂嵐の中に入ることにした。


砂嵐が吹き荒れる。その風は強すぎて、人の身体など吹き飛ばしてしまうくらいに。

でも俺は耐えながら足を動かしていた。

ここが何処かすらもわからないが、一つだけわかったことがある。

見事に敵の罠に嵌ったということだけ。

砂が顔に当たる度、思考力を掠め取っていく。


こんなんじゃ、学校いっとけば良かった。

だんだん、自分がなんて考えているのかもわからなくなった。


なんせ、砂がうざったいんだもの。


此処はもう日本なんかじゃない。

きっとね。


「お前…人間じゃないな」

声が聴こえる。

いうなら、低い男の声。

俺よりも歳上な声だ。


「なんの話だ」

その不気味な声に、俺は疑問を呈する他なかった。

砂嵐のせいで、恐怖心も消えていた。残っていたのは自分の状況に対する疑問。それと相手の不可解な言動に対する疑問のみである。

「この砂は、俺の結界テリトリーでな。普通の人間が入ったら。ひとたび魔力を吸われ、地に伏せるんだが。お前はもう8時間もここにいる。人間ではない。貴様、何者だ」

と不気味な声は変なことを言うのだ。


魔力?テリトリー?まあ、言葉自体はわかるが、言葉が言動に合ってないというか。

空気が合ってないというか。


「何言ってるか、わからん。お前こそなんだよ」

すると急に周辺が晴れた。

黒いローブを着た男がいる。

いかにも魔法とか使ってそうな風貌だ。

「俺は魔術師と呼ばれるものだ。今こうして魔力を蓄えるため、罠を敷いていたところにお前が来たと言うわけだ」

えらく、素直に話すなこいつ。

「ほう、わざわざご丁寧にありがとう。それで俺はこれからどうなるんだ?」

魔術師は急に大きく体を揺らしながら、笑った。

「何言ってるんだお前。此処に入った時点でお前を殺すに決まっているだろう」


困惑した。え?とでも言ってやろうかと思った矢先


「Schneide den Feind vor dir mit der Klinge des Windes durch」

何やら唱え始めた。

瞬間、風が吹き荒れ、刃を形成し、その刃は緑色の輝きを放ちながら、問答無用で俺に一直線に向かってきた。

俺は避けた。腕に擦り傷ができたが音速に迫るあの攻撃を避けた。


「生きがいいな、こりゃ俺の魔力にぴったりだぜ。生きがいいと食っても食っても湧くからなァ!!まだまだいくぜェ!」



次々、風の剣を形成、射出。

俺は自分の視覚と反射神経を信じることしかできなかった。


次弾は、バク転みたいなアクロバティックな動きでかわす。

なんなんだ、あれは。

奇跡みたいな攻撃が次々降って来る。

俺自身は避けることで精一杯だ。


しかし、転んだ。

そこに容赦なく風の剣が降り注ぐ。

死亡は確定しただろう。


「トドメだ」

最後の大トリと言わんばかりの巨大な剣が、俺の腹に突き刺さる。

痛さは感じなかった。

ほぼ瀕死だったのだから。

世界が暗くなっていく。


このあと俺は食われるのだろう。

あの魔術師というやつに。

俺の人生は文字通りあいつに食われてしまう。

なぜか、イライラした。

恐怖ではなく、イライラした。


憤怒が恐怖を喰らっていく。

なぜだか知らないが、猛烈に憤怒が止まらない。

俺はたった今、怒りに身を任せることにした。


視界が戻る。

聴覚が戻る。

……


俺が戻る。

俺は立ち上がった。


ちょうど魔術師は俺を喰う気だったのだろう。

目を丸くして俺に問いかける。

「なぜだ、なぜ立っていられる。致命傷のはずだ!」

俺は怒りを噛み締めて、目の前の敵に言い放つ。


「うるせえよ」

そして、敵の真似をするように、神秘へと願った。


「死ねええええええええええええええええええ!!!!!」

心臓の鼓動が一つ。


すると、俺のスイッチは完全に切り替わっていた。

自分の身体に通しているこの力こそが、魔術師と同じ魔力だと言うことも。

もう理解した。

魔術師は怯えつつ、言葉を発した。


「なぜだ!貴様、魔術師として覚醒だと!?

くそ、…ならいい同族同士なら力を発揮しても連合に目をつけられん!」

同様に魔術師も魔力を通した言葉を放つ。


「Schneide den Feind vor dir mit der Klinge des Windes durch」

最初はわからなかったが、この言葉の骨子を把握した。

これは自分のテリトリー内であれば、どれだけの距離を置こうとも、どこまでも追いかける必中の風の魔術。


再度俺を殺そうと、鋭さを持って追いかけてきた。


俺は自己強化した足で風を蹴った。

風は力を失い、霧散する。

難なく着地。

魔術師へ距離を詰めていく。


魔術師は顔を焦らせて、再度言葉を発する。


「Der Wind in meinen Grenzen. Sei mein ganzes Schwert. 」

途端、魔術師の周囲に風が吹き荒れ、薄い緑色の剣を手元に作りだす。


「近距離戦か!」

俺は手に力を込めた。

力を込めたことによって無理矢理、魔術を行使する。

とは言ってもこれは正式な魔力ではなくて、怒りによって生み出した、

いわば急造の魔力。

これを行使すれば、自身の身体が壊れることくらいは本能的にわかっていた。

しかし、使わなければ風の刃で粉々だ。


「うがあああああああああ!」

言葉にならない詠唱で、理不尽なほどに魔力を腕に流しこみ、魔術師の剣を弾き飛ばす。

「ひいっ!」

情けない声を出す、魔術師の顔面に


本気の一撃を叩き込んだ。

いくら魔術に精通している魔術師とはいえ。

元を正せば人間のはず。

まあ、勝手に容姿で判断しただけだが、賭けには成功したのでよしとしよう。


魔術師は最期に、憎しみと驚きを込めながら恨み節を言った。

「貴様……魔術師ではなく魔力狂いだったとは… 後悔しろ!貴様は私と変わらず地獄に落ちる」


「うるせえ、俺はお前にキレただけだ」

俺はたった今をもって人間ではなくなった。もっとも、この空間に耐えていた時点で人間ではなかったのかもしれないが。


魔術師の方をみると、すでに絶命していた。

何故か食欲が湧く、


情動。これは常識からは外れている。



どうしてだろう。何故か知らないが、俺は今あいつを喰いたいと思ってしまっている。

そうか、魔力狂い。


奴は、言っていたな。

奴は理性で俺を喰らおうとしていたが、俺は本能で奴を喰らおうとしてるのか。


まいったな。

本当に食べてしまいたい。

お腹がすい、


俺は奴の元に近づき、すっかり元に戻った人間の世界で、奴をたべ……



途端に世界が揺らいだ。

昏倒させられる。


俺は、結局奴を食えずに地に倒れた。







「魔力狂いの鎮圧を確認。連行しますか?」

余る理性で俺を倒れさせた相手を確認する。



………それは綺麗な女の子だった。



…………


「対象の名前は、檜山啓治。対象を魔力狂いとして魔戒連合に輸送します」

白い髪を靡かせ、その場を後にした。









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