真面目系おバカな小春さんと不真面目な僕。

天草 仙

思い出の場所

思い出の場所...それは誰しもあるのではないか?僕は近所にある小さな古びた公園のベンチが思い出の場所だ。

当時10歳の僕は友達も多く性格も活発な外交的な少年だった。

学校が終われば友達と自然豊かな森や川で走り回り、日が沈み家に帰ると笑顔で母、父、妹が出迎えてくれて温かい家族の温もりを感じられる夕食をむさぶる食べる。本当に幸せだった。

だが僕が11歳の小学校5年生のときに父と母が突如として離婚をし、僕と妹は母親のもとへついていくこことなった。

それから生活は一変した。父親は最初の3ヶ月は養育費を支払っていたもののそれ以降は養育費が支払われなくなり生活は圧迫。

そんな状況になり働きざるおえなくなった母は夜遅くまで働く事となり、僕が家の家事と妹の世話をする事となった。

そんな状況下となり、当然学校の友達との接点も減っていき、僕の幸せは徐々に濁っていった。

だが完全に濁っていった訳ではなく、妹と二人っきりの生活は僕にとってとても幸せな日々だった。

だが、そんな僕たちの日常を犯すように仕事柄かはわからないが徐々に柄が悪くなっていった母が家に男を連れ込むようになった。

男は固定と言う訳ではなくなく定期的に入れ替わるのだが決まって社会のゴミみたいな児童虐待を平気でヤるヤツしかいなかった。

母はそれを黙認し、まるで時を刻むかのように僕の体に痣が増えていった。

だがそれは良かった。僕なんて生きていても死んでいても変わらないから。だが、とうとう妹も暴力を振るわれるようになりそれから僕の幸せは不幸せへと染まっていった。

だが、そんな僕の世界を変えてくれる一人の少女が現れたのだ。

その日。中3の僕は妹を守るための戦闘を繰り広げたため意識が朦朧としていた。

「だ、大丈夫ですか?」

と僕が現実逃避する時に良く使う公園のベンチに行儀良く座っている少女が心配そうに僕に問いかけてくる。

「大丈夫にみえるか?」

全てにイラついて頭に血が昇っていた僕は心配して声をかけてくれた少女に悪態をつく。

「そ、そうですよね。ごめんなさい。わたし冷えピタとか絆創膏持っているのでこっちに来てください」

彼女は小さな手をベンチの空いている部分に叩きつけ横に座るように促す。

「嫌だね!だいたい君が僕に優しくするメリットって何?」

当時人間不信で人を信じられなかった僕は声をあらげ怒鳴る。

すると彼女は突然接近してきてキスをするのではないか?と言う距離まできて呟く。

「葵くんは覚えてないかも知れませんけど、私が小学校4年生の時に葵くんが中々友達が出来ない私を遊びに誘ってくれたんです。それで私本当に世界が変わりました。パッ!と全てが明るくなったんです。」

正直彼女との出来事おろか同じ学校と言うことすら覚えていないが正直彼女の言葉は当時の僕が最も欲していた言葉だった。誰かに求められていたという事と誰かを変えられたと言うこの事実だけでだんだん目頭が熱くなっていくことを感じたが僕はそれを誤魔化すように呟く。

「お前、俺の事好きだろ」

「はい!」

冗談で言ったつもりだったのだが彼女の迷いのない即答に少し、気恥ずかしさを感じる。だが反射的に答えたのか徐々に彼女の頬も赤らんでいく。どこか恨めしげに僕のお腹をポコポコと叩いてくる彼女は目鼻立ちが整っているザ清楚系美少女。と言う事もあるだろうが僕の事を認めてくれる人と言う事だけですごく愛おしく感じた。

「え、ええと...そ、そのですね...ちがくて!」

「もしかしてお前バカか?」

「違いますう!!!」

僕は彼女にあることを聞き忘れていたことに気づき問う。

「名前なんだっけ?」

その問いにどこか愛おしげな表情を浮かべながら「ッッもう!小春ですよ...あなたのことが世界で一番大好きな小春です!」

とあざと可愛く罵ってきた。その瞬間僕の世界は幸せに包まれ明確に恋をしたと自覚したのだった。

あれからも僕と小春の交流は中学卒業までで続いた。だが高校からは別々になったのでそれっきりだった。

高校生になり、母親の再婚をきっかけに県外の高校に通う事になったからだ。

だが一年で母の結婚生活は幕を閉じ、僕は高2でまたこの町に戻ってきた。まあ、それと母親を更正させるために母親の妹が母親の通帳の管理や外出などの管理をしてくれると言うので戻ってきたのだが。

僕は雨の後なのか雨独特の匂いがするアスファルトの地面を歩きながら公園へと向かう。

するとそこには身長も少し伸び清楚さが増した小春がいた。

「あ、葵くん...どうしてここに?」

「また、ここに住むことになった。」

と僕は呟き彼女の頭を撫でる。

すると彼女が少し頬を赤らめながら口許を緩めているので、僕は少し彼女をからかうように苦笑する。

「そんなに、僕に会えて嬉しいかー?まあ、ほぼ初対面で告白しちゃうぐらいだもんなー。」

するとまた、あの日のように彼女は頬を赤らめながら恨めしげな表情を浮かべ呟く。

「あ、当たり前じゃないですか...ま、また世界で一番好きな人と過ごせるんですよ」

彼女はまた反射的に呟いたのを後悔したのか僕の頬をツンツンと軽くつつきながらニヤリと笑みを浮かべる。

「あ、葵くんこそ...帰ってくるなりすぐにここに来ちゃて、そんなに私と一緒にいれないのが寂しかったのですか?」

「うん」

僕は小春を牽制するように小さく耳元で呟く。

「えええ!あ、葵くん...それって?」

彼女がどこか期待を織り混ぜた表情を浮かべて僕肩に寄りかかってくる。

今ここで告白しても良いのだがまだ、僕がこの町にきた目的も果たせていないし、この状態で付き合うと言うのは小春にもしっかいと向き合えていないような気がするので僕はニヤリと笑い彼女の頭を撫でる。

「まあ、からかいがいのあるヤツがいないのは凄く寂しかったよ。」

僕のこの発言で彼女の頬はさらに赤らんでいき「ばかぁ!」と叫びどっかに走り去って行ってしまう。そんな彼女を追いかけるように僕も公園を去るのだった。

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