おっさんスタリオン 異世界からきたおっさん騎士は北海道で馬を育ててダービーを制覇するようです

ふつうのにーちゃん

・プロローグ 異世界から来たおっさん、ジャパンダービーの華舞台に立つ

 俺の名はバーニィ・リトー。シバルリー騎士団・第3軍遊撃隊所属、準騎士――だったんだが、どうも運命の女神様に気に入られちまったみてぇで、今はこの異世界で騎手ジョッキーをしている。


 ここはジャパン国トーキョ、トーキョ競馬場、季節は6月上旬だ。

 目前に広がるターフは暖かな日差しに照らされて鮮やかな若草色に輝き、3歳馬最強を決めるこのハレの日を祝福してくれていた。


 満員のスタンド席からは割れんばかりの大歓声が響き渡り、それがここ出走ゲートまで届いていた。

 それも当然だ。何せ今日はジャパンダービーの日なのだから。


 この日、この瞬間、この第9レースの出走ゲートに入ることは、選ばれた優駿と、その相棒であるジョッキーだけに許された特権だ。

 各馬が一頭一頭ゲート入りしてゆく中、最も不利とされる18番ゲートにて、俺は相棒と共に発走の瞬間を待っていた。


「もしや、緊張しているか?」

「まさか。……あの大観衆を前にして、緊張しねぇ方がおかしいだろ」


 俺がこうして相棒と言葉を交わすと、だいたいのやつが奇異の目を向けてくる。

 このおっさん、馬とブツブツお喋りしてやがる。って目をな。


「我が背に乗る権利をくれてやったのだ。つまらぬことに気を取られていないで、うぬはただ、全力を尽くせ」

「ははは、人に説教してくる馬なんてお前さんくらいだぜ」


 けどよ、こうして言葉が通じちまうもんはしょうがねぇだろ。

 変なオヤジだと思われようと関係ねぇ。この相棒のご機嫌の方がよっぽど大切だ。


 コイツは他の馬と比べて類を見ないほどに荒々しい魂を持っている。

 そのあまりの気の荒さ、いや馬にそぐわぬ異様な気位の高さゆえに、少し前まで誰も乗りこなすことが出来なかった。


 俺はこの青鹿毛の巨体を持つ名馬に、ただ一人認められたジョッキーだ。

 俺だけがコイツの熱い魂と根性を見抜いて、このジャパンダービーの華舞台まで共に駆け上がってきた。


 さあ、いよいよ出走だ。1番から18番まで全てのゲートにダービー出場をもぎ取った名馬たちが収まり、やがて高らかにファンファーレが鳴り響く。

 曲としては短いそれが熱く華の舞台を盛り上げると、鳴り止まぬ大歓声と注目がこの出走ゲートに集まった。


 思えば遠くまできたものだ。

 戦乱の世界の騎士団で、準騎士として戦場や辺境をかけずり回っていたあの頃からは、とても信じられない幻想の国に俺はやってきてしまった。


 全ての転機は、シバルリー騎士団を追放されたあの日から始まったのだろう。


「悪ぃな、相棒。一緒に走れるのは今日限りだ……。これが終わったら、俺ぁ元の世界に帰らねぇと……」

「ならばこそ、悔いのないラストランにしようぞ。さあ行くぞ、バーニィッッ!!」


「おうっ、頼んだぜ、相棒……!」


 全サラブレッドの中で最も熱い魂を持った愛馬が、荒々しいいななきを上げた。

 この気迫だ。こいつならば勝てる。負けるはずがない。


 さあジャパンダービーの発走だ。

 ガシャンと小気味いい物音が鳴り響いて、俺たちの進路を塞ぐゲートが姿を消すと、俺たちはトーキョ競馬場の緑のターフへとブッチギリの一番乗りで飛び出していった。


 俺と相棒は華のジャパンダービーにて、最高のスタートを切った。

 これから俺たちはダービーを勝つ。勝てと命じられたからではなく、俺たちの意思でだ。

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