第39話 扉の前ってセーブしたくなる

「さて、とりあえず小道の奥になにがあるかを確かめるわよ」


 話しやすくなったため、弥生も話を進める。


「……っと。その前に攻略情報は買っておくわよ」


 異議は受け付けないわ、と言って画面を開く。



『ポイントを消費して【攻略情報】を購入しますか? 〔小道について〕』



 ポチっ。購入。



『べべべ! 小道には宝箱が隠されているべふぅ。ただし、罠が仕掛けられていることもあるから気をつけるべふぃ。べぇ~!』



 罠は……言うまでもなく、ヘルハウンドのことだろうな。


「宝箱ね。有用なアイテムが手に入るかもしれないわ」


「本当だろうか? その情報が嘘ではないという保証もないけれども」


「それは……そうね」


 少し考え込む弥生。


「でも、それならわざわざ売ってる意味がないんじゃないか?」


「ポイントを払わせることで逆に信頼させ、騙そうとしているかもしれない」


「まぁまぁ、疑い過ぎてはなにもできないですよ?」


「そうね、どこかの慎重すぎる勇者じゃあるまいし。警戒しながら行ってみましょう」


 そうして一行は小道を進んでいくが、結局なにも起こらず。


「……あからさまに宝箱って感じだけど、大丈夫かしら」


 目の前には青い下地に金の装飾が施された箱が置いてあった。


「開けたらだめなのか?」


「そりゃあ、宝箱がモンスターだったらどうするのよ。ミミッ○みたいな」


 ミ○ックがなんなのかは分からないけど、宝箱に似たモンスターがいることは分かった。


「じゃあこうするか」


 海斗は離れたところから、竿先で器用に蓋を開ける。



『べっべべ~! 1000000ポイントをゲットだべふぅ!』



「……なるほど。ポイントが貰えるようだね」


「これはいいわ! ボス戦前にポイントは溜めておきたいし、他の小道にある宝箱もチェックしておきたいわね」


 そういうわけで、いくつかあった小道を経由しながらも、三階層を踏破していく。


 その間は、罠があることを事前に承知していたので、弥生の指示のもと、安全に敵を倒すことができた。きちんとした情報さえあれば、無敵だ。


「……そろそろボスモンスターに近づいているみたいよ」


 弥生がスマホを見ながら呟く。


 今思ったけど、これは歩きスマホとして咎めるべきなのか?


「あ、あれ!」


 海斗の思考を遮るかのように、睦美が突然指差しをする。


 その声に反応した3人は、前方を注視した。


 ──海斗たちの前に立ちはだかったのは、巨大な扉だった。


「いかにもって感じだな」


 ゲームをしない海斗でも、その迫力になにかを感じ取った。


 黒光りする金属から作られていて、そこに白の幾何学模様が描かれた不気味な扉。


「いよいよボス部屋に辿り着いたわね」


 弥生は扉の前で座り込むと、他の面々も同じ様にさせ、円状に座った。


「どうしたんだい?」


「どうもこうも、ボス戦前に体力回復しないでどうするのよ。もうそろそろお腹も空く頃だし、なにか口にしておいた方がいいわ」


「確かにね。『腹が減ってはイクラができない』からな」


「海斗さん、それを言うなら『イクラ』じゃなくて『戦』ですよっ?」


 睦美は柔らかな眼差しで訂正してきた。


 その優しさが……辛い……。


「……そんなバカ発言はさておき」


 ストレートにきた……。


「海斗、なにか食べ物を出して。できればまだ食べてないもので」


「え?」


「なんで分からない顔してんのよ。同じ魚ばかり食べてたら、普通は飽きるの!」


 あんたには分かんないかもしれないけど、と言う。……素直に従っておくか。


 俺はなにか良さげなものがないか探しながら、会話にも耳を傾ける。


「んで、後は現在のポイントも確認した方がいいわね。海斗、残りなんポイント?」


 聞かれたので、俺は丁度開いていた画面を見せる。



『【金魚(4人前)】 500p

 購入後のポイント  2971124→ 2970624』



「あんた金魚を私たちに食わそうとしてるわけ!?」


「あっ、でも金魚って江戸時代には食べられていたとか……?」


「私は現代を生きてるの!」


「まぁ、食べても死なないぞ?」


「そういう問題じゃないでしょうが!」


 ため息をつく弥生。


「……とにかく、2971124ポイントあるのね。これだけあれば、ポイントに困ることもなさそうかしら。睦美は遠慮せずに【魔法の執筆セット】を使ってね」


 睦美は了解ですっ、と頷いた。


「それと、ボスモンスターについてだけど……」


《ウィン》


「……やっぱりね」


 出てきた画面は、ボスモンスターについての情報を購入するか問うていた。


 ポチっ。もちろん購入。



『べべべ! 三階層のボスモンスターは【アイスゴーレム】だべふぃ。物理攻撃が主な攻撃手段だけど、たまに物を投げつけてくるべふぅ。それと、防御力が高いのにも気をつけるべふぁっふぁ。べ~!』



「なるほど。敵の特性を理解していれば、有利に戦うことができそうだね」


「えぇ。だからこれを元に、今から細かい作戦を立てるわ」

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