第28話 Wi‐Fi ないけど地図はある
「うわ、明るっ!?」
内側の部屋には、光に満ちた輝かしい空間が広がっていた。外は夜だったから、あまりの差異に思わず目が眩んだ。
……やっと目が慣れてきて、詳しい情報を視界から取り入れる。
部屋の中央には岩がある。表面が割と平らなので、サイズからしてもちょっとしたテーブルみたいだ。
そのテーブルの上には、ごちゃごちゃと金属の破片が置いてあった。さっきの金属音の正体はこれか。
今度は壁の方に目を向ける。
壁には幾つかの電球がつけられていて、それらに繋がっている導線を辿っていくと、専用のボックスで直列繋ぎになった数個の乾電池が、地面に置いてあった。
なるほど、どうりで明るいわけだ。
「どう? お気に召したかな、海斗クン」
「うん。こんなちゃんとした部屋に泊まるのは……あ、一日ぶりか」
今気づいたけど、ここに来てからまだ一日半しか経っていない。体感ではもっと過ごしていた気がしたのに。
「これなら質のいい生活が送れそうだね」
「ふふっ、海斗クンのお眼鏡にかなってよかったよ。そこの小学生……もとい、キミはどうかな?」
「あんた、全部言い切ってから言い直したわね?」
爆発寸前なのか、蹴りの体勢に入る弥生。
「ごめんね。でも、まだキミの名前を聞いていないから」
悪びれもしないのは相変わらずだ。
しかし、弥生が名乗っていなかったのも、また事実。蹴るのはなんとか我慢し、自己紹介をし始めた。
「……私は大崎弥生。さっきも言った通り、こ! う! こ! う! 一年生よ。趣味はゲーム。以上。あんたに言うことはもうないわ」
プイっとそっぽを向き、相手にしないことを前面にアピールする。
「おやおや、これは手厳しいね。もっと弥生ピョンのことを知りたかったのだけれども」
「弥生ピョンって、あんたやっぱり馬鹿にしてるでしょ!」
「あ、こっちを向いてくれた」
椿は、にこやかな表情で弥生に手を振る。
「~~っつ!」
顔を真っ赤にして、地団太を踏んでいた。地面が割れそうな勢いで。
「それで、先程から押し黙っているキミは?」
椿は睦美の方に顔を向ける。だが、まごまごして一向に声を出さない。
「……キミ、緊張しているのかな? 髪の毛を触るのは心理学的に見ると、緊張とか不安の現れだと言われているね」
ハッとして、睦美が頭から手を離す。無意識でやっていたのだろう。癖なのかもしれない。
「……文月睦美、です。趣味は、えっと、小説を……書くこと…………です……」
か細い声で、懸命に自己紹介をしていた。そこそこの人見知りだが、それがまた「守ってあげたくなる女子」という感じで、彼女の魅力でもある。ただ、これが海斗たちを欺く演技という可能性も捨てきれないので、難しいところ。
「うん。それなら呼び名はムッツ―だね。よろしく」
「は、はい……」
いきなりのあだ名呼称に反論できないのは、睦美の睦美たる所以だろう。こくりと頷くだけだった。
「……さて、本題に入るとしようか」
椿が真剣なトーンで切り出してくる。これには弥生も渋々話を聞かざるを得ない。
「私たちはこれからどうするか。これについて話し合いたい」
すると、椿に対抗心を燃やしたのか、弥生が一歩前に出る。
「まずはマップが最優先よ。位置情報が分かれば、ここから脱出するのも簡単だわ」
そう言って、弥生は【攻略情報〈マップ〉】の画面を出して、椿に見せた。
「ふむ。この『購入画面』は弥生ピョンにも出すことができるんだね」
「弥生ピョン言うな! ……って、やっぱりあんたも出せるわけ?」
「できるよ。ほら」
《ウィン》
そうして現れた画面は……少し見慣れないものだった。本来ならふざけたイラストの書かれているスペースに、メーターのようなものが幾つも表示されている。
「数度試してみたのだけれども、このメーターで材質の特性を設定して、その条件を満たす物質を購入できるようだね。他にも【備考欄】というところで細かい設定を書き込むことができる」
どうやら画面を使いこなしているらしい。やっぱり洞察力が高いから、操作方法をすぐに見抜けたんだろう。
「……ちょっと待って。それじゃあ、あんたの趣味はなんなの?」
錬金術が趣味とか? ……それはないか。
「趣味? どうして急に趣味の話を?」
椿は小首を傾げる。……あぁ、そうか。事情を知らないと、脈絡がないように聞こえるのか。
「実はこの画面で購入できるのって、その人の趣味に関係するものだけなのよ。ちなみに私はゲームが趣味だから、マップとかの【攻略情報】が購入できたりするんだけど」
「ゲームのことは分からないけれども……。それならば私のこの画面も、納得することができるね。なにせ私の趣味は『実験』だからね」
実験が趣味、か。中々珍しい。いや、俺の「釣り」も皆が皆してることじゃないけど。
「『実験』と『物質』ねぇ。まぁ、関係がないとも言えないけど……ちょっと無理矢理な感じはするわね」
「そうかな? 物質の精製は、実験の範疇と言って差し支えないと、私は思っているよ」
本人がそう言うのだから、それでいいんだろう。
「……話が逸れてしまったね。とにもかくにも、マップを購入するということで、大丈夫かな?」
椿は海斗と睦美に向かって問いかけた。そして弥生は、二人が頷くのを見、マップを購入した。
《ブィーン、ブィーン》
弥生のスマホが震える。
「え、通知? ここ通信途切れてるのに?」
そう言いながらもスマホを操作していると。
「……あ、『マップ』のアプリがダウンロードされてる!」
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