第12話 首は回らないが、目は回る

「ちょ、ちょっと待て。『文字数×200p』って──」


 海斗は慌てて原稿用紙を拾い上げる。


「ちょ、ちょうど400文字だから……80000pってことになるわね……」


 全員が沈黙し、重たい空気が場を支配する。


「……こ、このしょうもない機能つけただけの釣り竿に、80000p……」


 海斗もここまでくると「しょうもない」と言ってしまう。そりゃ、便利と言えば便利だけど、どう考えてもここまでしてつけたい機能ではない。だったら普通に1000p払って【投げ釣り用ロッド】を購入するべきだった。


「は、はわわわわ……わ、私のせいで……」


「いいえ、違うわ。これは完全に──」



「こいつのせいよ」「俺のせいです」



 共通認識だった。調子に乗ったのが仇になった。


「マジでごめん……」


 海斗のできることは平謝り。以上。


「……謝ってもポイントは返ってこないし、しょうがないわ。これからの活躍で、なんとか挽回しなさい」


 ……意外にも、これ以上追及してこなかった。罵倒を覚悟していた海斗は拍子抜けである。


「で、でもやっぱり、私にも責任があると思います……。私がもっと簡潔な文を書いていれば、ポイントの消費も抑えられたのに……。だ、だから、海斗さんはもう顔をあげてください」


 海斗はゆっくりと顔をあげた。


 視界には困ったように笑う弥生と、心配そうに見つめてくる睦美。


「……ありがとう」


「……なーにしけた顔してんの。このメンバーで戦闘に参加できるのは、実質あんただけなんだから。守られる側の私たちが心配になる顔しないでよ」


「そ、そうです。私も精一杯サポートしますから……!」


 二人は海斗に寄り添って、そんな言葉をかけた。


 しばしば喧嘩腰になることはあっても、失敗を許容してくれた弥生。


 発言が苦手なのにもかかわらず、懸命に励ましてくれた睦美。


 仲間ってこういうものなのか……と、いつも学校でボッチの海斗はそう思った。



 ……などと、平和なことを言っていられるのも今の内だけだった。


「な、なんか数多くね!?」


「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああ!」


「タ、タツノオトシゴって群れるんですか!?」


「いや、あんま聞いたことないな!」


 三人は失ったポイントを取り戻すべく、モンスター狩りに出かけていた。順調にモンスターを倒していた彼らだったが、途中でタツノオトシゴの集団に出くわしてしまい、逃走──そして今に至る。


「ちょ、ちょっと! 早く倒してってば!」


「今やってる!」


 走る二人の少し後方を追走しながらも、3号の錘を竿で投げる。


 それはかなりの速度で群れの一匹に命中。一発で撃沈するも、群れの後ろから次の個体が湧き出てくる。きりがない。


 海斗はリールで糸を巻いて投げた錘を回収しながらも、打開策を考える。


「……いや、普通に考えて無理だろ!」


 一匹ずつ倒していては効率が悪すぎる。戦闘時間が長引けば長引くほど、こちらがダメージを受ける可能性も高い。


 しかも、そもそもこの3号錘では、モンスターに衝突したあと弾かれてしまう。もっと重い錘を購入したいところだが、いかんせん走っている最中だ。それも難しい。


「ん、あれは……!」


 先に、円状の部屋がある。あそこまで行けば錘を購入できる隙もあるかもしれない。


 海斗は部屋に飛び込んですぐ、画面を出し、【購入】ボタンを押した。


「40号の錘……! 20ポイントか、手ごろな価格でよかった!」


 地面に落ちたそれを拾い上げると、部屋の中心部までまた走る。そこで二人と合流し、背中合わせになった。


「あんた、どうする? 結構ヤバいわよ、この状況」


「いや、大丈夫──これでよし、っと」


 海斗は神速で3号錘を40号錘に変更した。


 その間にタツノオトシゴ達は部屋沿いに並んでいき、一斉に槍を構えた。挟み撃ちにするつもりなのだ。


「か、海斗さん……!」


「大丈夫。二人は伏せて」


「は、はい……!」


「? 分かったわ」


 とりあえず海斗の言う通りにする二人。


 すると海斗は竿を持つ体ごと回転させ、錘を振り回し始める。


 40号の錘が地面からフワッと浮かんだのを確認すると、海斗はリールの上部に手をかけた。そう、「ドラグ」を緩めたのだ。


 すると糸が少しずつ伸びていき、錘の軌道は段々と大きな輪になっていく。そしてそれはやがてタツノオトシゴ達を直撃する。


《ピギャァァァァァァァア!》


 タツノオトシゴの群れを倒した!


「……す、凄いですね!」


「まあ、やるじゃない。……って、あんた大丈夫?」


「……うぅ、目回った」


「え、ダサっ!?」


「しょうがないだろ! あんなに回ったら……うっ」


 平衡感覚が完全になくなり、倒れる。


「か、海斗さん!? しっかりして下さい!」


「う、うん。大丈夫。意識はあるから」


 ただ視界がグルグルと回っているだけで、特にそれ以外の異常はないのだ。


「でも、これ以上の戦闘はやめておいた方がよさそうね。回復したらすぐに撤収するわよ」


 そういうわけで、暫く休んだのち、また例の小部屋に戻った。

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