笑うと負けよ、あっぷっぷ
圓道義信
第1話 プロローグ
あなたは街で偶然、友達や知り合いに会った事はあるだろうか。
その人は北東にある隣街の駅から南西に進み、あなたは北西の駅から南東に進む。
たとえば寄り道もせず歩いたとして、出会った場所がお互いの降りた駅から10キロ程で、知り合いは12m/分、あなたは8m/分の速度で歩く、するとおおよそ8時間ちょっとのところであなた達は見知らぬ街で偶然出会う事になる。
『矛盾』 つじつまの合わないこと
人の心の中には必ず矛盾がある。
人々はその矛盾を試行錯誤させ生き続ける。
そして目に見える矛盾に対しては強く抗議し反発する。メディアやネットの世界しかり。ただ目に見えない矛盾を推し量って抗議をする者はいない。
正しい、正しく無いでは言い表せない心の中の矛盾。
例えば世界平和を切に祈る牧師にも、動物愛護を心から願う協会の会長にもその矛盾は必ずある。
人類の世界平和を切に願う牧師ですら、息子や娘、はたまた孫の出世には大いに感動し喜ぶことだろう。
しかし自分の親族が出世していくに連れて、親族にやぶれ悲しみ、仲間から見捨てられ、中には生きていく希望が見えなくなる者が少なからずいることは世の恒なのだ。
牧師はその者達にこう答えるだろう、さらに努力しなさい、さらに勤勉でありなさい、人に優しくしなさい、困っている人がいれば助けなさい、苦しい時は笑っていなさい、笑顔でいれば必ず幸せになれる、さらば道は開かれん。
そう言った牧師は笑顔であなたを迎えてくれるであろう、世界中の子供の為にと。
戦争に反対し、人類皆兄弟と唱える宗教団体の教祖様だって矛盾の中で生きている。
教団を守るため、人類を導く為に頂くお布施。そのお布施を収める人々がこの世の争いに打ち勝ち、手にしたお金だと解っていても。
そのお金ですら、人間が作った戦いの道具だと知りながら。
動物愛護を訴える人々、たとえばその人々が乗っている船や車。空気中にまき散らされる軽油や重油の空気汚染、動物たちを見守るレーダーの、動物や海中生物への影響、何より、もともとありえなかった海上やジャングルを人類が進むこと。その人達が口にする物は全て遺伝子組み換え品なのだろうか。
世界でもっとも権威ある賞をとった学者が、バイオテクノロジーを駆使して人類の寿命を延ばしてしまえば、永遠の命を手に入れたイエスを誰も敬う事が無くなる事など、考えもせずに。
ノーベル平和賞を取ったテディだって、どんなに美味い茶を入れる利休でさえも、ジェロニモや秀吉の、自分の心の中の矛盾も試行錯誤させる。
もちろん俺だって試行錯誤して生きている。仲間とくだらない話をしているとき、小さな話を面白い話にするために、多少話を盛ったり、初めて入ったお店で、自分のとんかつより隣のおじさんのとんかつの方が大きかったら、少しへこんだり。
人のため、仲間のためと言い訳しながら散々悪い事も繰り返してきた。人を救うためだからと言う冠がついていたなら、悪事を働いている人間から、全てを奪ってさえも構わないと思って生きてきた。
ただそれも自分の命の灯火が消える直前だったらどうだろう。もしくは自分の大好きな人の命の灯火が消える直前だったら、数々の自分のしてきた不条理な出来事をただしたいと思うかもしれない。懺悔したいと思うかもしれない。懺悔して悔い改めれば、大好きな人を、自分を救ってもらえるかもしれないと泣き叫ぶかもしれない。
今までしてきた数々の出来事を悔いても、謝っても誰も救われない。神父様に自分のしてきた罪を告げたところで、神父様はそれを無かったことにしてくれるわけでは無い、懺悔することで自分の肩の荷を降ろせる等とは到底思っていない。
あと何日生きていられるか解らない、何日相手の笑顔を見られるのか、何日相手に笑顔をみせられるのかを考えたら、好き勝手に生きてきた自分の人生を恨むかもしれない。
今の俺にはこんな程度の考えしか浮かばないのだ。
俺の横で寝ているこの人の為にも。
紡いだ糸の辻を合わせる事の出来ない人生だったとしても、人々が生まれてきたこと自体が矛盾だと思わぬために
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