Hope in magic world ━━━━魔法の世界に剣士が一人━━━━

清河ダイト

第1話 Intersecting World━━━━交差する世界━━━━

「今日もありがとうございました。次回もよろしくお願いします。」

今日も一日の修練が終わり、帰宅の準備をする。

俺は江本結翔。笹森流剣術を習っており、ちょうど今日の修練が終わったところだ。

俺は学生ながら笹森流剣術の一番弟子で、自分でもそこそこ自信がある。そのためか、ほとんど毎日師範に色々なアドバイスを貰っている。

「おい結翔。」

「は、はいっ!」

今日も師範に呼ばれ、師範の元に向かう。

「結翔。お前に守りたい者は居るか?」

「ま、守りたいモノ……?」

守りたいモノ━━いや、守りたい者はいる。幼馴染の華凛だ。しかし、なぜ今こんな事を聞いてくるのだろうか……。と、そんな俺の思考を読んだのか師範は口を開いた。

「なぜこんなことを聞くのか。そう思っとるだろ。━━なんとなく、俺は長生き出来なさそうらしい。」

「ご……ご冗談を。」

俺は苦笑いをしつつ答える。

「まあいい。とにかく、守りたい者は居るか?」

「…………居ます。幼馴染の友達です。」

正直にそう答えると師範は「ほう?」と言う。

「ならばこれからはそいつの為に剣術を、心を、志を、自分を磨いていけ。俺から教えることはもう無い。」

「……え?」

これまで師範からは技術的なことや礼儀などを教えてもらってきたが、どれだけ頑張って、頭を使って工夫しつつ修練を行っても師範には勝てなかった。なのに今、突然「教えることはもう無い」と言われ、俺はものすごい混乱した。

「わ、私なんかまだまだです。まだよく分からないことなんて沢山━━」

「結翔!!」

「っ………!?」

俺は余りの気迫に押せれて絶句した。

そのまま師範は鋭い眼光で俺の目を睨みつけ続ける。

「━━━フっ。たしかにまだまだだな結翔。」

そう言うと師範の顔がフッと明るくなり、俺も安堵する。

「すまんな結翔。時間を取らせた。だが最後に一つだけ言っておくことがある。」

「な、なんでしょう」

すると師範はニッと笑みを浮かべて言った。

「これからはその幼馴染とやらの為に剣を振れ。それに関わらず結翔、お前の大事な奴の為にも、だ。まっ、今のお前にできるかは知らんがな!」

「は、はいっ!」


その時に浮かべられた師範の笑みが、言葉が、時間が、今走馬灯のように━━いや、実際に走馬灯として蘇る。

俺はあの時師範に言われた事を何も達成できなかった。

所詮、俺はたった1人の剣士だ。科学には勝てない。核兵器なんか…………。


身体が暑い……。

いや、その感覚すらも既に失われた。

(痛く……ない……?)

なんだろう。だんだん涼しくなっている。それと比例するように、だんだん身体が楽になっていく。

このまま楽になってしまいたい。

だけれど華凛を置いていくわけにはいかない。

だが抗う事ができない。

やっぱり俺は……


━━なにもできない、弱者なんだ……。


━━━━━━━━━━


「「━━━━フローガ!」」

火属性魔法の術式の詠唱が響く。それと同時に火の玉が目の前に一つ発生する。

「「ファイアリング!!」」

すると基礎魔法の発射術式の詠唱が続き、標的に向かって飛んでいく。標的に飛んでいく9個の火の玉のうち3個が見事に命中したのを僕は、1人教室の中で見た。

僕は、国立テリアス魔法学院の4年生、モナーク・テリヤ10歳。ちなみにさっき魔法を標的に命中させた3人の中の1人、マシュカ・アテネは同じ故郷の幼馴染だ。

僕達が通う国立テリアス魔法学院は魔法大国 テリアス の王都、魔法都市マリークにある。テリアス魔法学院は9学年制で、6歳の時に最も魔法に秀でた子供を学ばせ、将来大国軍の主力や幹部等になりうる人材を育成することが目的らしい。

だが、僕はこの学校で魔法を学ぶ時点で絶対に必要である魔法を使えないのだ。だが生まれた時から使えなかった訳ではない。

生まれた当時、僕は天才と呼ばれるほど魔法を使いこなしていた。火、水、土、木、氷の基本属性に限らず、光、闇、無の3つの属性も含めた全属性を使いこなし、テリアス魔法学院に入って1年が経った7歳の時には、同クラスの10人のうちたった1人だけ、独学で上位魔法をも使いこなしていた。もちろん周りからの期待も大きく、次の将軍候補とも噂されていたらしい。

だが、今の僕には上位魔法は愚か、基本魔法ですら扱えなくなってしまったのだ。

「オイオイ、手が止まってるぞっ! 勉強さぼんなテリヤっ!」

いつしか手を止めて窓の外を見ていた僕に、机の上で腕を着いて寝ころんでいる犬が注意してくる。

「さぼんなって言っても書かなくても覚えてるっての。……使えるかはどうかはともかく……。」

「まったく、不甲斐ない奴だな~テリヤは~」

「いや~それほどでも。」

この人の言葉を喋る犬は、精霊の中でも珍しい聖剣霊のフレイク。そう、こいつと出会った事によって僕は魔法が使えなくなってしまったのだ。

「…………オレを恨んだりしないのか?」

突然、フレイクは俯きながらそう言ってきた。

「……感謝はしても恨みはしないよ。フレイクがいなきゃ僕達は今頃天界に召されてるよ。」

僕は苦笑いしつつ答える。

フレイクとは故郷の森に僕とアテネが8歳の時に行った時、魔神国の魔者使い狩りの集団に会った時だ。もちろん、その頃は上位魔法がバンバン使えたから最初は善戦、というより圧倒していた。しかし、周囲の魔力が尽きた……いや尽かされた事によってこちらの武器は魔者狩りの落とした剣のみ……かつ僕は剣なんか使ったこともないし、アテネは気を失ってしまっている。まさに絶体絶命な状態の時、フレイクが現れたのだ。

しかし、フレイクは精霊なので周囲の魔力が尽きた状態では思うように動けず、フレイクも追い詰められてしまった。

そこでボクは思い出した。契約を結ぶことて、精霊は契約した人の生命力を使って魔力を生み出し、魔法を行使できるということを。

早速、僕はフレイクに契約を結ぼうと提案した。フレイクは怪訝な表情を浮かべ「本当に良いのか? どうなっても知らないぞ?」と言った。僕は「生きていられるなら僕の身はどうなってもいい」と答えるとフレイクは承諾してくれた。

そして、フレイクと契約を結んだ瞬間、意識が遠のき、気がつけば故郷の村からほど近い病院……いや規模が小さいため救護所のベットに寝かされていた。そして、それから僕は一切魔法が使えなくなってしまったのだ。

そんなフレイクと会った時を思い出していると、「ふーん……ならいいや」と呟き、

「なぁ、明日休日だろ? 久しぶりに王都の商店街に行ってみようぜ。」

「えぇ……街に行くの……? それもよりによって王都の商店街って無茶苦茶人いるじゃん……!」

世間一般に精霊は稀にいるものの、精霊術士はとても珍しい。なので商店街、それも王都の商店街になんかに行ったら大騒ぎになること間違いなしだ。

「大丈夫だって。犬らしくすればバレンバレン。」

「━━━━」

━━うん。不安しかない。

しかしそうは思いつつも、行ってみたい気持ちも無くはない。というか行きたいぐらいだ。だけれどまだもうひとつ問題がある。

僕は外にいる問題のヒト……幼馴染のアテネを見る。フレイクも問題視していたらしく、スっと隣の空中に座る。

「例え市民にボクの事がバレなくてもアテネ達は知ってるからね~。あと、ここのセンセーにもテルヤが遊んでるってバレたらまずいけど……」

「けど?」

僕がそう聞くと、フレイクはグッドサインとウインクをして言った。

「どちらにしろバレなかったらいいだけの事だぜ☆」

「━━━━」

━━うん。不安しかないわ☆

しかし結局己の誘惑に負け、明日商店街に行くことになった。

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