空き缶の謎

 カズヤは翌日も公園に行った。

(あれ?)

 ベンチに老人の姿はなかった。老人は荷物ごと消え去っていた。

(まいったな)

 カズヤはため息をつきながら、老人がいつも座っていたベンチに腰を下ろした。

(もし、あれが事実なら……)

 そう思うと身震いした。


(あれ?)

 ふと、視野の片隅に何かが引っ掛かった。ベンチの下に何かある。


 ……それは、 『赤い空き缶』 と 『青い空き缶』 だった。


(置き忘れたのか?)

 そっと二つの缶を手に取った。


(まさかな)

 カズヤは何気なく、赤い缶をそっと耳にあててみた。


「!」

『これが初交信だな』


(う、うそだろ!)

 赤い缶の中を反響して声が聴こえた。


「だ、誰だよ」

 カズヤは周りの目を気にする余裕もなく、缶に話しかけた。


「信じられないと思うが、次の日のオレだ」

(そうか! 老人の能力じゃない。空き缶だ!)


「未来のオレ……これからどうする気だ?」

「まず、缶の特性を調べる。赤い缶は未来の自分と、青い缶は過去の自分と話ができる」

「それ以外、分かったことは?」

「それだけしか分かっていない。検証が必要だな。いつの赤と青がつながるのか。ルールが分からないと例の日がいつかを知ることはできないと思う」

「隕石の日だな」

「昨日のオレ、相談なのだが、その日に名前をつけないか?」

「破滅の日……とか?」

「センスがないなあ」

「未来のオレはそんな悪態をつくのか。まあいい、Xデーにしよう。クリスマスみたいでいいじゃないか」

「分かった。お前は明日も公園に来て、オレと同じ話をするんだ。その後はオレが考える」

 会話を終えると、缶を耳から離した。

 再度、耳に当てても声は聞こえなかった。青い缶を耳に当ててみたが、何も聞こえなかった。


 翌日は学校があったが、昼休みに学校を抜け出した。そして、公園で過去の自分と話しをした。

 その日から毎日、学校を抜けて検証を行った。おかげで、ルールが分かってきた。


 一つ目が缶が使える範囲だ。缶は公園の中でしか効果がなかった。公園を出てしまうと交信ができなかった。


 二つ目が使える回数だ。使えるのは一日一回、赤か青の缶の一方だけだ。また、缶を一度、耳から離すと、その日は二度と繋がらなかった。


 三つ目が、いつと接続されるかだ。赤い缶で未来の自分と接続する場合、時間的に近い未来で青い缶を使った日に接続がされることが分かった。

 しかし、完全に最寄もよりの日とは限らなかった。あくまで近い日の方が確率的に高くなるようだった。また、一度接続された未来とは二度とつながらないということも分かった。


 ルールを解析するまでに一か月、掛かった。そろそろ、本格的にXデーを調べる方法を考えなければならない。その日は明日にも来るかもしれないのだ。

 

 タイムトラベルを題材にした多くの映画と同様、カズヤも缶を使って金儲けができないかを考えた。宝くじの番号を過去の自分に伝えて買わせるってやつだ。しかし、それは思いとどまった。Xデーを確かめて家族や友人を避難させることが最重要だと思った。


 どうすれば効率的にXデーが確定できるのか、カズヤは知恵を振り絞った。そして、ある作戦を思い付いた。


(明日、未来の自分に話そう)

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