老人と『青い空き缶』
カズヤが帰宅して早々、母親がうれしそうに近付いてきた。
「カズヤ、おもしろいTシャツを見つけたの。あんたに買ってきたわよ」
そう言いながら、紙袋からシャツを出した。
それは、赤いシャツ。胸にピンク色の文字で 『青春』 と書いてある。
「こんなの恥ずかしくて着れるか……って、あれ?」
カズヤは公園での出来事を思い出した。
(そういえば、あの老人が確か……)
奇妙な一致に少々、気味が悪くなった。
「とりあえず貰っておく。でも、シャツは自分で買うから」
*
翌日は土曜日で学校はお休み。カズヤは男子友達と遊ぶ約束をしていた。
(母さんが買ってきたTシャツ、着ていくか。いいネタになるし)
公園を通ったとき、老人はいつものようにベンチに座っていた。
その日は前日と異なり、『青い空き缶』 を耳に当てて楽しそうに話をしていた。
(昨日はたしか、赤い缶だったような……)
待合せまで余裕があったので、カズヤは老人を観察することにした。前日と同様、隣のベンチに座った。
「今日も、黄色メガネの少年が通ったぞ」
(また、オレのことか?)
「服装? 変な服を着ておるぞ。赤いTシャツ、胸にピンク色の文字で、『青春』 と書いてある。センスがないのう~」
隣のベンチには見向きもしないが、確かにカズヤのことを話していた。
(今の会話、そういえば?)
カズヤは前日の出来事を思い出した。
(赤色にピンク文字で 『青春』 なんてTシャツなんて珍しい。昨日も、そんな会話をしていたな)
心に引かかったが、待合せがあるのでその場を離れた。そのあと、友人と遊んでいる間は老人の事をすっかり忘れていた。
*
帰宅後に風呂で湯舟につかっていると、ふと老人の会話が思い出された。
(昨日、あのジイさんは、オレがその晩にもらうシャツの話をしていた。翌日、オレがそれを着て……まさか!)
信じられい仮説が頭に浮かんだ。
―あの老人は未来の自分と話しをしている
(『赤い空き缶』なら未来、『青い空き缶』なら過去の自分と話をしているのかも。もっと、検証が必要だ)
信じられない話だが、カズヤの理系の血が騒いだ。
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