老人と『青い空き缶』

 カズヤが帰宅して早々、母親がうれしそうに近付いてきた。

「カズヤ、おもしろいTシャツを見つけたの。あんたに買ってきたわよ」

 そう言いながら、紙袋からシャツを出した。


 それは、赤いシャツ。胸にピンク色の文字で 『青春』 と書いてある。

「こんなの恥ずかしくて着れるか……って、あれ?」

 カズヤは公園での出来事を思い出した。

(そういえば、あの老人が確か……)

 奇妙な一致に少々、気味が悪くなった。


「とりあえず貰っておく。でも、シャツは自分で買うから」



 翌日は土曜日で学校はお休み。カズヤは男子友達と遊ぶ約束をしていた。

(母さんが買ってきたTシャツ、着ていくか。いいネタになるし)


 公園を通ったとき、老人はいつものようにベンチに座っていた。

 その日は前日と異なり、『青い空き缶』 を耳に当てて楽しそうに話をしていた。

(昨日はたしか、赤い缶だったような……)


 待合せまで余裕があったので、カズヤは老人を観察することにした。前日と同様、隣のベンチに座った。


「今日も、黄色メガネの少年が通ったぞ」

(また、オレのことか?)


「服装? 変な服を着ておるぞ。赤いTシャツ、胸にピンク色の文字で、『青春』 と書いてある。センスがないのう~」

 隣のベンチには見向きもしないが、確かにカズヤのことを話していた。


(今の会話、そういえば?)

 カズヤは前日の出来事を思い出した。

(赤色にピンク文字で 『青春』 なんてTシャツなんて珍しい。昨日も、そんな会話をしていたな)

 心に引かかったが、待合せがあるのでその場を離れた。そのあと、友人と遊んでいる間は老人の事をすっかり忘れていた。



 帰宅後に風呂で湯舟につかっていると、ふと老人の会話が思い出された。


(昨日、あのジイさんは、オレがその晩にもらうシャツの話をしていた。翌日、オレがそれを着て……まさか!)

 信じられい仮説が頭に浮かんだ。


―あの老人は未来の自分と話しをしている


(『赤い空き缶』なら未来、『青い空き缶』なら過去の自分と話をしているのかも。もっと、検証が必要だ)

 信じられない話だが、カズヤの理系の血が騒いだ。

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