第61話 5人組を作った
メアと入れ替わって、オードリーがステージに立った。
「お騒がせした。次のゲームへうつる。これまでは新5年生同士の対戦だったが、次は新6年生から新8年生も参加する。新5年生2人とそれ以外で5人組を作れ。技力クラスと魔力クラスを両方含めろ」
「だって、ハンナ」
私は真っ先にハンナに自分の椅子を近づけた。どうせ放っておいてもハンナのほうから誘ってくるだろうし、人見知りのハンナのことは放っておけないし、それに私はハンナと一緒にいて楽しい。
ハンナもほほえみ、うなずいた。
「はい、ユマさま。わたくしはどこまでもついていきます」
私が真っ先にハンナを誘ったのには、別の理由もあった。
予想通り、私の周りには何人もの同級生や先輩が集まってきた。
「ユマ、私と組まない?」
「ユマ、一緒にやりたい」
「私とかどう?」
あまり話したことのない人も、全く話したことのない人もとても多い。アイドルや芸能人は大変だと私は思った。承認欲求がないと言えば嘘になるのだが、四六時中称賛を受けてばかりいるのは甚だ疲れるものである。
かといって、私とハンナはすでに組んでしまったので、残りの3人は先輩の中から探さなければいけないのも確かだ。私は人混みの中から、ひとつの姿を見つけた。
「アユミ先輩!」
私はハンナの手首を引っ張った。それを見て、周りから同級生の姿は消えた。私は人混みの中にいる、黄色い髪を跳ねさせ、たぬきのようなかわいらしい獣耳をつけた人へ一目散に向かった。
「アユミ先輩」
「ユマ」
アユミは、いつも通りノイカを横に置いていた。ノイカは人目をためらうように、アユミの後ろに隠れるように、アユミの脇に手を添えていた。
「アユミ先輩、ノイカ先輩、私と組んでくれますか?」
「もちろん!‥と言いたいところだけど、ノイカは別の人と組むって」
「えっ、意外ですね」
私がそう答えた時、ノイカがばっと私に向かって小さく手を振った。いや、ノイカの目線は私ではなく、私の後ろへいっている。後ろを向くと、レイナとアージャがこちらへ向かって歩いてきていた。
「レイナ、ノイカ先輩と組むの?」
「うん、いろいろあってね」
レイナはクールに答えて、手を即席のくしにして髪の毛を軽く整えた。
猛烈な人見知りのノイカがアユミと離れるのはとても意外だったが、ノイカは嫌な顔ひとつせず、アユミから離れてレイナ・アージャと一緒に向こうへ行ってしまった。
「はは、さてあと2人はどうしよう。私、誘っていい?」
「はい、お願いします」
アユミは私に断りを入れると、「じゃあね、ちょっと待っててね」と言って、どこかへ行ってしまった。
周りの人垣もいつの間にか消えて、それぞれのグループを作り始めていた。ハンナが私に話しかけてきた。
「アユミ先輩、どなたをお連れになるのでしょう‥?」
「さあ、誰だろ。面白い人だったらいいな」
「‥‥‥‥生徒会長はこのゲームに参加されないのでしょうか」
ハンナは急に目を伏せて、声のトーンを弱めた。そして、私の体にすり寄ってきた。
「‥‥参加しないんじゃないかな。このゲーム作りに関わってるわけだし、不公平かな」
私はそう答えつつも、至近距離まで近づいてきたハンナをどうしても意識してしまう。ハンナの絹のような白髪は、私の顔がうつってしまうのではないかと思うくらい透き通っていて、エルフの長い耳も健在だ。そしてその碧眼も、小柄な体や顔も、守ってあげたいと思うくらいには美しくかわいらしい。
「‥‥ユマさま?」
ハンナが私の異変に気づいたようだ。
「何でもないよ、ちょっとね」
私はごまかした。
私は女相手に何を考えているのだろうか。ハンナとは逆の方向に視線をやった。そこにアユミがいた。
「お待たせ、1人連れてきたよ」
そう言って、アユミは1人の男と一緒に戻ってきた。
「カシス先輩」
茶色の髪の毛をして背の高いその先輩は、先程あの巨大ゴーレムを召喚していたあのカシスだった。
「やあ、さっきはごめんね。怪我はなかったかな?」
「はい、大丈夫です」
あの明らかに宝探しゲームそのものを破壊しかねないレベルだったゴーレムについてはいろいろ言いたいこともあったが、こらえることにした。でもカシスは、そんな私の気持ちに気付いたようだ。最初に会った時の印象とは違う、とてもまじめで真剣な顔をしていた。
「‥申し訳ない。あのゴーレムは生徒会からの指示だったとはいえ、気分が壊れたなら申し訳ないことをした。僕も反対はしたんだ、でも‥‥指示があったとはいえ、直接ゴーレムを作ったのは僕だ。責任は僕にある」
「そんな‥」
私は仔細を知らないので一概に責めることも、許すことも出来ない。だが、カシスは悪いことをするような人には見えない。この話はうやむやにするのが一番だと思った。話題のネタを探そうと、私は周りを見回した。
「‥‥!」
見慣れた人が1人、こちらへ歩いてくるのが見えた。
金髪のロング髪、そして大きな胸を揺らして、カタリナは私たちのところへ歩いてきた。
「‥生徒会長、ご用件は何ですか?」
私のすぐ前に、ハンナが割って入ってきた。表情は見えないが、必死な時に出る声だった。人見知りで押しに弱いハンナが、無理をしてまで私との接触を止めようとしているのだろう。カタリナは余裕ぶって、くすっと笑ってみせた。
「用件だなんて、そんな堅苦しい話ではないわ。わたしもユマたちのグループに入れないかなって」
「‥‥えっ!?」
その言葉に、私たち4人全員が驚いた。中でもアユミは一番驚いた様子だった。
「生徒会長、このゲームは生徒会が用意したものですから、生徒会長が参加するのは不公平では‥?」
「ふふ‥さあ、どうかしら」
答えを濁すカタリナのその瞳が潤んでいて、私にはどこか寂しそうに見えた。
一体何が寂しいのだろうか、それは分からない。
ルールとしてどうなのだろうという思いはあるのだが、その瞳を見せられては私にはどうすることもできない。
と、つかつかと大きな足音が響いてきた。ピンクのブロンド髪をした、セレナだった。
セレナが珍しく、カタリナを睨んでいる。
「生徒会長」
「あら、何かしら、セレナ」
「生徒会長は代々このゲームに参加しない決まりになってるはずよ」
「‥‥どうだろうね」
なおもごまかすカタリナを見て、セレナは平手を振り上げた。
大きくぶつかる音とともに、カタリナの首の向きが瞬時に変わった。
私もアユミもハンナもカシスも、口をぽっかり開けて、言葉を失った。
手を振り下ろしたセレナは「‥‥はぁ」とため息をついて、怒鳴るような大声で言った。
「やめなよ」
「‥‥」
カタリナは叩かれた頬を手で触ったまま、答えなかった。
「おねえさ‥生徒会長」
見ていられなくて私は声をかけたが、カタリナはぷいっと私から顔を背けた。
「‥‥えっ」
あんな寂しくつらそうな表情をしているカタリナなんて、見たことがない。
あの横顔はどこまでも真剣味があって、カタリナの今の気持ちを表しているようで。
「あの‥」
私が何か声をかけると同時に、カタリナは頬をさすったまま歩き出してしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます