第7話 ここでも真剣勝負?

 さて、真剣勝負は終わり、正式にユウが僕をマリに挨拶。


「この子が、さっき私の彼氏になった浅井君。こっちがマリ。ちっちゃいでしょ? でも私と同じ中学三年なんだよ」

 ちいちゃいと言われて不機嫌な顔のマリが挨拶する。


「ちっちゃぅない! マリだ! よろしくな!」

「こちらこそ、浅井ながまさです。高校生で特に得意はないですが、とくに二人のように、武術はやっていません、のでお手柔らかにお願いします」

 僕をしみじみと見つめたマリ。


「ふーーん、そうなのか。ところで大丈夫なのか……ドス!」

 軽い感じで竹刀を持ち、途中からは物凄い速さで突きを打ち込んできた。

 僕は喉を一気に突かれ、三メートルほど後ろへ飛ばされた。


「なにするんですか! 死んじゃいますよ」

 僕は驚きと痛みと怒りをユリに向けたが、本人はユウの方を向いて右手で竹刀を肩でトントンしていた。

「ふーーん。いいじゃん。これなら戦えるかもな」


 そうでしょう、とニッコリしたユウ。でも僕はきな臭いマリの言葉を確かめる。

「戦う? 誰とですか?」


 問われたマリはユウの方を見て聞いた。


「ユウ。まだ言ってないのか? 戦国時代の鬼が現れた事を」


 口に一本指を立てて、内緒とマリにジェスチャーするユウ。

 だが、僕は聞いた単語で驚くと共に、うさん臭さを感じていた。


「戦国時代の鬼って、アニメじゃあるまいし、そんなものが……」

 冗談だよね、と共感をもとめてみたが、二人はマジで頷いた。


「いるよ。アニメの鬼とは違って、その姿は人間そのものだけど。私たちと同様な異能の力を持っている」


 マジですか……いや、戦国時代の怪物がよみかえっても、僕には関係ないし、そんなのは二人のような、特別な人が戦えばよくない?

 そんな僕の思いなど伝わるわけない、二人が同時に僕の肩を叩いた。


「まあ、よろしく頼む」

 言葉を残し、後ろに飛ばされて、床に頭をぶつけて、しばらく動けない僕をほっといて、剣道の練習というか、小学生たちとのワイワイ、たわむれているユウとマリ。


「まだ、このおねえーちゃんと遊ぶ!」

 小学生がマリから離れようとしない。

「お姉ちゃんはもう疲れたって」

 ユウが小学生からマリのサルベージ(引き揚げ)を試みるが、ちっこいの十数人に囲まれて動けない状態。

「いいよ。もう少し一緒にいるよ。でもなあ……腹減った…」

 エネルギーを全て使い込んだマリがねを上げた時、神代先生が近づいてきた。



「寿司とか焼き肉とか食いたい」

 ご飯をおごる事になった神代先生にマリが注文をつけた。

 僕とユウもご相伴にあずかる事になったが、ここで白虎が怒る。

「そんな金が何処に有る? 地方公務員を舐めるな!」


 そうゆう事で四人は近くのカレー屋に入った。マリは当然カレー大盛り。

 ご飯は800グラム、カツ二枚乗せ、特製の特大ウィンナーの二本刺し。


「そこで邪魔しなけりゃ、神代戦をフルボッコにしてたのに」

「マリあれ以上、力を使ったら……餓死したぞ」


 悔しそうに大盛りのパルチックカレーを、もの凄い勢いで食べているマリを、たしなめる神代先生。


「早く先生をぶっ飛ばして……モグモグ……婆ちゃんもぶっ飛ばして……ムシャムシャ……マリが一番い……ゴクゴク」


 カレーを食べながら、神代先生に、マリが再び文句を言う。


「まあ、そう言うな。おまえの婆ちゃんは身体の強さだけじゃなくて、心の強さも欲しいと思っている。武道を学んでいるものは……マリ、オレの話を聞いているのか?」


 諦め気味な神代先生の説得は、トンカツを二個同時に頬張ったマリには届いていなかった。

 それでも雰囲気で、咎められているのが分ったようだ。


 自分は悪くないと、スプーンを持っていない左手を左右に振ってから、中指を立ててファックポーズ。不満を全身で表すマリ、カレーは美味しいらしく顔は緩んでいるが……


「つまり、そんなのしらん、今度は白虎を仕留める! 覚えとおけ! コノヤローって事か……はぁあ、まあマリならそう言うか……」

 僕がカレーの大盛に苦戦している時(男は大盛だろうと白虎、神代先生に注文されてしまった)ユウがクスっと笑った。


 今度は大型ウィンナーを一本丸々頬張ったマリが、先生の視線に気がつき、また中指を立てて、ファックポーズを決めていた。


「ほら、バカがまたなにか食いながら言っている」

 モゴモゴ言いながら、バカではないと、必死に首を振る。


「こ、こら、カレーを食いながら首を振るな、カレーが飛び散る! ああ~~今年は炭素を減らすとかで、カジュアルぽい服装なんか求められてな。電気は省エネ実現だが、先生は逆に服装代が掛かって、お金の排出量の増大を実現。それでなくても、地方公務員は結構大変なんだぞ。PTAはすぐ文句言ってくるし、モンスターペアいや、親御さん達も怖いし……」


 神代先生も大変だが、ユウにこの時、初めて盾として使用された僕にも、カレーの弾丸が飛んできた。僕が機能を果たしたのに満足そうに、安心してカレーを口に運ぶユウ。


 カレーに浸食されている、神代先生の格好は、たるみのある薄めのカジュアルジャケットをはおり、ズボンは細身の黒い色。淡いクリーム色のシャツに、少し崩して格子模様のモノクロのネクタイを締めている。


「服のセンスは悪くはないけど、いつも同じような気がするわ、もっとおしゃれした方がいい。先生自身は結構いけてるから。プレゼントしましょうか?」


「ユウは金持っているな……って、マリ、カレー食いながらリアクションすな!」

 マリと僕に挟まれて、動けない神代先生にカレーの雨が降る。

「フフ、楽しいわね。脳筋を見ていると和むわ。まあ、服をねだるならアカリにお願いします先生」

 僕は盾として、ユウを守りながら(カレー食ってるだけだけど)聞きなれない名前に反応する。まだ、こんな超人たちがいるのかと。


「ああ、そうね浅井君は知らないよね。道明寺明莉(どうみょうじ・あかり)アカリと呼んでね。マリと同じ中学に通う、大金持ちで大学生に間違われるくらい、モデルなみのスタイルの女の子。あ、だめだよ浮気しちゃ、フフ」


 懸命にカレーを拭き取りながら注意を続ける神代先生

「こら~マリ、もはやおまえは、わざとやっている領域だろ~! だから~カレー食いながら、リアクションするな~マリ!」


 先生とマリのパルチックカレーバトルを見ながら、片肘をついた明莉が真顔で呟く。


「私、大人は嫌いだし、その嫌いな大人が造ったこの世界は大嫌い。時々、壊したくなるくらいに。でも先生は好きよ、あと浅井君ももちろん、マリもね。ささやかに生きている、これくらいの幸せは守りたい絶対に……って、あなた達聞いてる?」


 マリが盗み食いしようとトンカツに伸ばした手。そこに神代先生のスプーンが振り下ろされる。ガシャン、フォークで受け止めマリが次の攻撃、スプーンによるカツ奪取を実行。

 二段作戦は成功して、カツをスプーンに乗せる事に成功するが、勢い余ってトンカツをスプーン上で滑らせ神代先生に放出。油とカレーが服にベッタリ付着、先生の目がキラリと光った。


「来いマリ! 真剣勝負だ!」

「望むところだ!」

 スプーンとフォークを二刀流で構えた二人。

 戦う場所を道場からカレー屋に代え、戦いのフィールドへと突入する。

 ユウが二人を見て呆れながらも、笑みを浮かべた。


「ふぅ、仲がいいわねえ。ちょっと妬けるくらい……近いうちにアカリにも合っておこうかな。意外と戦いは近いかもしれない」


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