ある日の道程にて思う

チカチカと明滅する電灯の光が夜の食堂をほんのりと照らしている。


「宮間も善哉で良いよね?」


「……温かければ何でもいいよ」


歩き疲れた宮間は食堂の窓から見える空を眺めながら言う。宮間の返事を聞いた橋屋は善哉を2つ受付で頼み、彼女が座っている窓際の席に向かい合うように座った。


「温泉、閉まってたね」


「……そうだね」


最近忙しいばかりで休めていないとぼやいていたら、親友の橋屋に声を掛けられた。深い山を登り、辿り着いた目的の風呂屋は経営不振で先月に閉業していた。目の前の橋屋は平気そうには振る舞っているが、やはり少し気落ちしている。かなりの遠出をして来たのもあり、帰る頃には日付が変わってしまう。どうするべきかと山を下っている途中に昼間では開いていなかった食堂を見つけ、現在はそこで休んでいるのだ。


「下調べもしたのに、閉店なんてどこにも書いてなかったよね?」


「山奥だし、今は冬だよ。……多分、道が舗装されてるとはいえ山奥に来る人が少なかったんじゃないかな」


経営不振に陥ったのはきっとそのせいだろう。そんなことを言いつつ、宮間は周囲を見渡してみた。店内に他の客は居らず、照明も二人が座っている他は殆どが消されている。遅くまで営業しているとはいえこの店も2時間後には閉店するらしく、その後は道路を歩いて山を下りるしかない。


「善哉ニ人前、おまちどおさま」


そんなことを考えていると、橋屋が頼んでおいた善哉が運ばれてきた。湯気が立ち、中央には丸い餅が浮かんでいる。


「頂きます」


「……頂きます」


先に食べ始めた橋屋に続き、宮間も汁を啜る。口の中に甘みと独特な少しの苦味が広がる。温かく甘いその善哉は、落ち込んでいる今は特に美味しく感じた。食べ終わる頃には餅と小豆で軽く腹を満たされ、体も温まっていた。

甘く温かい一時を堪能した二人は店を出て、再び山を下り始める。


「麓まであと少しだから、近くの宿に泊まって朝に温泉入ろ」


「……そうだね」


こんな時間が過ごせるのなら、遠回りも悪くない。元気を取り戻したらしい親友を見ながら宮間はそう思えた。

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