描かれし少女の夢と小雪に咲く花

るなち

花束を。

 私には親友が居た。

 彼はいつも私に笑顔をくれ、元気をくれた。

 彼には親友が居た。

 私は笑顔で返し、二人で笑いあった。




 私が彼の家に泊まっていた時だった。

「この風景と想いを忘れないように楽曲を作ろう」

 二人でピアノの音色や静かに刻まれていくハイハットを聴いた。

 しかし、肝心な所で完成させることが出来ないまま私は家に帰ることになった。

「いつかちゃんと完成して聴かせよう」

 そう思いながら月日は経った。




 私は愚かだった。

 自分の見えてる世界だけが全てではないと、思い知らされた。

 昨日まで話をしていたはずなのに、最後に笑顔で手を振って別れたはずなのに。

 命と言うモノはどうしようもないくらいに儚いモノだった。

 結局完成させることが出来ないまま月日が経った曲を丁寧に作り上げた。

「これは彼には届かないけど」

 そう、言い聞かせながら。私は筆を走らせた。

 アザレアと名付けたその曲は、私と彼の。

 あの日のまま感情だった。




 私達には友人が居た。

 とても仲の良い友人だった。

 いつの日かの出来事だった。

「あの曲みたいな曲書いてよ」

 ふとした発言がきっかけだった。

 私は三日間でその曲を作り上げ、彼女に聴かせた。

 名前はルピナスと言う花の名前から取った。

 彼女の誕生花であり、花言葉は想像力。

 彼女にもとても合う花だった。




 皆、今は違う所に居る。

 しかし、決して想いは変わらないと私は強く信じている。

 彼の想いも、私の想いも、彼女の想いも。

 どれか一つでも欠けていればこの曲は完成することは無かったであろう。


 私と彼女からの、最初で最後のプレゼントだった。

 彼へ思いを馳せ、再会の時まで漂う。

 再び三人で、咲き誇る花園の中で、お茶会をしよう。

 もう冷めることのない、温かいお茶を飲もう。




 私は――。

 少なくとも、今はまだ。




 私には、親友が居る。

 もう手放さないように。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る