エルフ、又の名を桔梗

@mohoumono

第1話 件の花屋

 カランカラン、扉が開き、

 心地よいベルの音がなる。

「あの、すいません

 悩みを解決してくれる花屋って

 ここで合ってますかね?」

少年が、おどおどとした様子で

震えた声で話しかけてきた。


「ええ、もちろん会っていますよ。」

僕は、

そう言っていつものようにニコッと笑う。


「本当ですか?よかったです。

 実は僕、

 方向音痴でたどり着けるか不安でした。」

少年の顔は、それまでとは違い

パァと日光のような笑顔になった。


「大丈夫ですよ。

 あなたならどんな道を辿っても

 ここに辿り着いたはずですから。」


少年は、

その話を聞きキョトンとした顔をする。


「すいません、気にしないでください。」


「は、はい?」

  

「急で申し訳ないんですけど、

 僕の悩みを聞いて欲しいんですけど。」

少年は、口をモゴモゴとさせ

体をクネクネさせる。


「少しお待ちください。」

僕は、少年にそう告げてから

店の奥へと入った。


僕は、目を閉じて深呼吸をする。

そうすると、花の声が聞こえてくる。


「今日は私の出番かしら?」

タチアオイがそう言った。


「いいや、俺の出番だ。」

ルドベギアは、そう言った。


「いいえ、僕の出番でしょう。」

ブルーベリーの花は、そう言った。


僕は、目を閉じたまま花を触る。

僕は、目を開ける。

 

「エーデルワイス、今回は君にするよ。」

「ありがとうございます。」

僕は、エーデルワイスを一輪取り少年に渡した。


それを受け取った少年は、目を輝かせ、

「噂通りですね。」

とキラキラと目を輝かせた。


「今夜良い夢を。」


「軽快なる朝を!」

少年は、元気よく扉を開けた。


カランカランと心地よいドアの音がなった。

けれどその音よりも

パタンと寂しいドアが閉まる音の方が

大きく聞こえた。


元の世界にいつ戻れるのだろうか

いつも意味のないことを考える。


そもそも花屋を始めたのは、

神託のようなものが聞こえたからだ。


その言葉の言う通りに従って

とある場所に花屋を開いた。

そして、信託通りに結界を張った。

なんの効果があるのかはわからない。

信託通りの場所で穴を掘ったら

元の世界の魔法具が埋まってあった。


だからこそ僕は信じて、

一年間花屋をやってきた。

けれども、あの日聞こえた声は

その日以降聴こえることはなかった。


そして、ちょうど今日で

この世界に来てから100年になる。


僕は、店の奥にしまってある

アルバムを取り出す。

埃を払う動作をするが、

毎日のように見ているので、

埃は、ほとんどついていなかった。


「翔、賢吾、ひじり僕は寂しいよ。

 君にも生きてくれって言われたから

 生きているけれど、、、」

それ以上は、言ってしまったら

翔と賢吾、ひじりを

否定してしまうような気がして

僕は、言葉を押し殺した。


ポタポタと涙がアルバムに落ちてしまう。

最近いつもこうなってしまう。

僕は、涙を拭き幸せな記憶を思い出す。


僕は、元いた世界で

のんびりと日向にあたり、寝ていた。

そしたら、突然ヒュッと穴が開き、

気づいたら、この世界に来ていた。


そして、

その時に僕の親友である大空翔と出会った。

けれど、僕はその時知らなかった。

この世界では、

自分のことをエルフと呼ぶことも

自分に似たような形をした、けれど

自分と同じ生態ではない生物が

存在していることを、

そして、その生物が自分よりも

遥かに短命であることを


翔は、気のいい青年であった。

初めにあった時は、

僕を見るなり体が硬直していたな

そして、

僕が、ここはどこだ?って尋ねると

ほっと一息をついてから

どこだって言われても

南丹町にある山の頂上ですかね

と言っていた


後から知ったが、

この世界には国がいくつもあり

私の容姿は、翔の国では珍しいらしく

翔は、僕のことを

この国の人ではないと思ったらしい。


あの、もし良かったら

家まで案内しましょうか?

と翔は言った。


家とはなんだ?

僕はそう言った。今思えば翔からしたら

頭のおかしい奴だっただろう


翔は、首を傾げたまま固まっていた。


僕は、それを見て

僕は、この世界のものではない

そう言った。


翔は、いわゆるお節介と

言われるタイプの人間だった。


普通のやつならこんな頭のおかしいやつ

放っておくだろう、

けれど翔はそうはしなかった。


翔は、少し待ってもらっていいですかと言い

スマホで電話をかけ始めた。


それから少しして、

あなたってエルフって

知ってますかねと言われたな


僕は、ファンタジーに出てくるエルフと

いう種族に酷似しているらしい


けれど当時の僕は、

そんなことは当たり前のように

知らなかったので、さぁ、なんのことだ?

と答えた。


そして、翔は違うじゃんと

小声のような大声で

電話越しの相手に叫んでいたな

あの慌てようは

今思い出しても笑ってしまう。


そして、その電話の相手が

大海 賢吾だった。

そいつは、とても面白いやつで

眼鏡をかけた堅物かと思いきや

酒を飲めば裸踊りをする愉快なやつだった。


そして、僕は翔の家に居候した。

最初から二人を信用してたわけではないが

面白そうだったのでついていった。


外に出る時も、

翔と賢吾が僕の耳に落書きをしていた

理由を聞いたらエルフのとんがっている耳を

つけ耳みたいにして

コスプレしてるやつだったら

特に問題はないだろうということだった。


楽しいことばかりだった。


けれどそんな時も長くは続かなかった

二人は、どんどん縮んでいって

どんどんしわくちゃになっていった

それにつれて命の灯火も萎んでいった。


二人がいなくなってから

体の中心に穴が空いたように感じる

そこから生きるために必要なエネルギーが

漏れ出てしまっている

そんな感覚に陥っていた。


けれど、そんな虚な心を埋めてくれるのは、

皮肉にも彼らとの思い出であった。

しかし、それでも虚しさはいつまで経っても

体の中を虫のように這いずり回り

蠢き活力を吸い取っていく。


元の世界に戻りたいと思うのは、

寿命が同じである自分と同じの種族と

過ごした方が幸せだと考えたからだ。


そんなことを考えているにもかかわらず

僕は、もう一度過ちを犯してしまった。


はぁとため息をつく。

それと共にポタポタと涙が頬を伝った。


気がつくと夜になっていた。


僕は、人を救うために準備をする。

エーデルワイスを一輪取り、

ベッドの近くの花瓶に入れる。

そして、ベッドに寝転がり、目を閉じる。


そうすると、昼間僕に会いに来た。

少年と出会った。


「こんにちは。」

僕は、その少年に挨拶をする。


「こ、こんにちは。」

僕に気づいた少年は、

少し驚いた様子で挨拶を返してくれた。


「噂通りですね。

 夢に出てくるってほんとだったんだ。」

少年の目は、キラキラと輝いていた。


「名前、聞いてもいいかな

 僕は、桔梗って言うんだ。」

僕は、噂づくりのために

慣れない喋り方をしている

そして、この喋り方も一年経つ、

なので自分では、

形になってきていると思っている。


「僕はですね。

 青空 日向と言います。

 今日は、よろしくお願いします。」

日向は、背筋をピンとし、

お辞儀をしていた。


「ははは、いいよ

 そんなにかしこまらなくても。」


「分かりました。ありがとうございます。」


「うん、じゃあ行こうか。」

僕は、そう言ってから歩き始める。


「あの、」と

日向に引き止められ、僕は立ち止まり、

日向の方を振り返る。


「あの、行くってどこにですかね?」


「ああ、行ってなかったけ?

 簡単に言えば、

 君の悩みの種がある場所かな?」

僕は、少し首を傾げながら言う


「首を傾げているのは、気になるけど

 それで悩みが解消されるなら

 信じてついていきます。」


「あ、そういえば

 昼間渡した花、持っていますか?」


「ええ、一応

 枕元に置いて寝ました。」


「なら、大丈夫だ。」


「何がですか?」


僕は、あえてその問いに答えなかった。

説明が面倒くさかったからだ。


「なんでですか、

 怖いんですけど。」


日向はそう言って声を張っていた。


僕は、それを無視して歩き始める。

後ろをチラッと見たが

日向は、走ってついてきているようだった。


僕と日向は、そこからしばらく歩いた。

その間日向は、いろいろな話をしてくれた。

そして、、その話をしている間日向は、

ずっとニコニコと笑っていた。

今日はとても幸運だった。

何故なら、日向の悩みは、

もうすでに

解決しているようなものだからだ。

その証拠に、夢魔の眷属を

長い時間歩いたにもかかわらず

一回も見ていない。


それに、もう見えてきた。

夢魔が


「あれ、何ですか?」

日向は、空を指差す。


「あれはね、

 夢魔って言うんだ。

 君の悩みの種が具現化したものだよ。」


「ドラゴンっぽくてカッコいいですけど

 なんか怖いですね。」


「そうか、それは良かった。

 残念だけど、 

 あれを倒さなくちゃいけない。」


「何が良かったんですか?

 僕怖いって言いませんでしたっけ?」


「ところで、君ゲームは好きかい?」


「なんですか?突然

 まぁ結構好きですけど。」


「じゃあ今からアレを倒そうか。」


「え、そんなことできるんですか?」

日向の目は、キラキラと輝いている。


僕は、元の世界に帰りたいという

目的があってこういうことをしている

けれど、悩みを持ったくすんだ目をした人が

キラキラとした目に

変わっていくのを見るのが好きだから

という理由もある。


「剣が出るかは分からないけど、

 その花を両手で握ってみて。」

日向は、僕に言われた通りに

エーデルワイスを両手で握る。


そうすると、

エーデルワイスは眩い光に包まれながら

形を変えていった。


光が収まると、

日向の手には剣が握られていた。


「じゃあ、弱いやつから倒してみようか」

僕は、そう言いながら

石ころを小さい夢魔の眷属に当てる。


コツンと石ころを当てられた夢魔の眷属は、

ドドドと音を立て、こっちに突進してきた。


「何してるんですか?

 あのあれ無理ですよそんな急には。」


「まぁまぁ、取り敢えず剣振ってみて。」


日向は、目を瞑りながら剣を振り下ろした。

そうすると、スパンと夢魔の眷属が切れ、

サラサラと土になって消えていった。


「やっぱり、

 君の悩みは、

 もう殆ど解決しているようなものだね。

 ただ背中を押して

 もらいたがってるだけだ。」

そう僕は夢魔の眷属の弱さから、確信した。

本来のあいつらは、交戦的であり、

大量にいて

尚且つある程度の知能を持っている。

少なくとも、

あんな一直線に突進するほど馬鹿ではない。

つまり、夢魔の眷属が

それだけ弱いということは、

日向の悩みは

殆ど解決しているということだ。


「そうなんですかね。」

日向は、ハハハと笑う。


「君に足りないのは、

 勇気かもしれないね。」

 

「それは、間違ってないですね。」

日向は、僕から目線を逸らし

頭を掻いた。


「それじゃあ、ドラゴン退治というか。」


「はい!」


やはり、僕の思った通り

夢魔の眷属は、

一人も僕たちのことを襲って来なかった。

 

それどころか、

僕たちをみて逃げる夢魔の眷属もいた。


そうして、何の危険もなく

ドラゴンの姿をした

夢魔がいる場所へと辿り着いた。


上を見上げると

ドラゴンの形をした夢魔がいる。

けれど、

そいつはこちらを襲って来ようとしない。

まだ結界が解かれていないからだ。


僕は、ふぅと息を吐き、

「そろそろ、

 悩みを話してくれてもいいんじゃない?」


「今ですか?」

日向は、キョトンした顔でこちらを見る。


「ああ、今話してくれないと

 結界が解かれないからね。」


「結界って何ですかね?」


「なら、夢魔から説明しようか。

 そんなに急がなくても

 今日は大丈夫そうだしね。」


「ありがとうございます。」

日向は、元気よくそう言った。


「まず、夢魔というものは、

 誰でも心の中に大なり小なり

 住み着いているものなんだ。

 まぁ、僕がさっきから

 言っている悩みと思ってもらっていい

 そして、理由はわかってないんだけど

 夢魔が人間に害を与え、

 生命を脅かされている人間が

 僕のところに導かれるんだ。」


「夢魔っているのは、その人の悩みで

 それまではわかっているんですけど

 異常をきたすって何ですか?」


「そこは、僕にもわかんないんだよね。

 向こうの世界の神様に

 言われたからってだけで

 何で人が来るのかも、

 どういう条件で来るのかも

 僕には何もわかんないんだよね。

 笑っちゃうよね。」


「うーーん、よく分からなかったけど

 あなたが人を救ってるのは変わりない

 んじゃないですかね?」

日向は、僕に笑いかける。

僕は、その天真爛漫な笑顔に

翔の姿を重ねてしまった。


「やっと笑ってくれましたね。」

日向は、僕の顔を見てそういう


僕は、口元を触る。

口角が上がっていたことに気づいた。


「ありがとう、少し楽になったよ。」


「どういたしまして、

 なら次は僕の番ですね。」

日向は、深呼吸をしていた。


「僕、実は今入院しているんです。

 だから昨日は凄くびっくりしました。

 友達から聞いたように

 呪文を唱えてドアを開けたら

 いつの間にかあそこにいて」

と日向は、突然話すのをやめ、

「あ、すいません悩みの話でしたよね。」


「どっちでもいいよ。話してみて。」


「今僕は、学校に行けてはいないんですが

 その友達が話してくれるんですよ、

 学校のことだったり、

 ゲームのことだったり、

 本当にいろんなこと

 そして、今流行ってる都市伝説があるって

 話を聞いて

 で、暇だったんで試してみたら

 出てきてびっくりしました。

 それで、話は変わるんですけど

 僕元々バスケをやってたんですよね。

 それで、ある日突然事故に遭って

 脚はもう動かないだろうって言われて

 それで、バスケができなくなったんです。

 でも、友達が車いすバスケットボールは

 どうかって進めてくれて、

 初めは見学だけなんて思ってたんですけど

 思ってたよりも楽しくって

 ハマっちゃったんですよね。

 そしたら、

 違う病気にかかっちゃったみたいで

 もう一度入院する羽目になったんですよ

 でも、手術をしたら治るって

 だからそれはもう気にしてないんですけど

 ある日、見舞いにくる大人たちの

 話し声が聞こえちゃって

 日向くんこんなことになっちゃって

 本当に可哀想ねなんて聞こえてきて

 それで両親も、

 なんで日向だけがこんな目にって

 それだけじゃなくて

 あなたは、

 こんな不幸な目に遭ってるんだから

 絶対幸せになれるって言われたりして

 今までの自分が全て否定された気がして

 それが一つ目の悩みですね。」

日向の顔は、どんどんと暗くなり

声は、小さくなっていった。

それを悩みだと思い抱えているのが

罪であるかのように日向は、

話し続けていた。


「そっか、二つ目の悩みは

 それに関連することかな?」


「違います。

 けどもう少しだけ

 待ってもらっていいですか?」

日向は、頭を伏せ、か細い声でそう言った。


「いいよ、ならその間僕の昔話をしよう。」


日向は、それを聞いて頷いた。


「僕も、昔可哀想だって

 言われた事があってね

 僕と同じ種族の人は、親がいないんだよ

 厳密には、大樹のマナが親なんだけど

 こっちの世界でいう親はいないんだよね。

 それで、親はどんな人なのって

 聞かれたから、いないよって答えたら

 シンと静まり返ってね

 しかも、ごめんなって謝られてしまって

 それで次の日からは、

 妙に優しくされるんだよ。

 毎日、大丈夫か?とか元気か?とか

 言ってくる割には勝手に線引きして

 遠くから見ているだけなんだよ

 挙げ句の果てには、可哀想だねって

 憐れむような目で見られたな

 それらが僕にはとても辛かった。

 差別っていうのは、

 ひじりから聞いた事があるけど

 きっとアレのことなんだろうね

 それで、その時ひじりから言われたんだよ

(言葉っていうのは、不思議なものだよね

 死ねって言われたのに

 喜ぶ人もいれば

 頑張れって言われたのに

 悲しくなる人もいる。 

 だから、言葉っていうのは、

 ナイフでも弾丸でも毒でもなくて

 一つの生命体だと思っているんだよね。

 だからこそ、

 相性がとても重要だと私は思う。

 ある時は、

 生きるための活力になるし

 またある時は、死ぬための活力にもなる。

 だからさ、可哀想という言葉は、

 桔梗にとって相性が悪かっただけ、

 そんな言葉に誘惑されて

 自分を可哀想だなんて思わないでくれよ

 桔梗の吐く生命体に焦がれた私も

 可哀想だってことに  

 なってしまうからね。)ってさ

 その人に救われて、

 その時僕は初めて恋をしたんだよ。」

僕は、目から涙が出そうになるのを

防ぐため、空を見上げる。

 

「良い人ですね。

 僕は、あなたほどじゃないですけど

 少しスッキリしました。」

日向は、涙を拭くの袖で拭う。


僕は、その言葉を聞いて

少し嫌な気持ちになった。

「だからさ、そうやって

 自分を卑下するのはやめろよって話だろ?

 幸福も不幸も経験したか、

 してないのか違いで、

 それが共感できるかできないかの

 違いなんだよ。

 僕は、もう数千年は生きてる

 まぁこの世界で生きた年は、

 その一割にも満たないんだけどね

 そんな僕でも、

 首を傾げる幸福や不幸は、ある。

 だからさ、幸福と不幸をさ

 自分くらいは、理解してあげようよ。

 時間は、かかるだろうけどね。」

僕は、心が重くなる感覚がした。

多分それは、自分ができもしないことを

人に偉そうに語るからだろう


「ありがとうございます。」

日向は、ふふふと笑った。


それからしばらくして、

日向は、深呼吸をし始めた。

「待たせてしまってすいません。」


「いいよ、待つのは得意だからね。」


「もう一つの悩みは、

 友達を助けられない事です。」


「友達ってさっき言ってた子のことかな?」


「はい、そうです。

 それで、

 僕の勘違いだったら良いんですけど

 その友達が、毎回どこかに

 絆創膏を貼ってるんですよね。

 それで聞いてみても、転んだとか

 適当にはぐらかされてる気がして

 僕もそれで、踏み込めないというか

 でも、踏み込んだとしても

 僕じゃ助けられないかもしれないとか

 この期に及んで保身に走るとか

 どうなんだとか

 そういうのが悩みです。」


「なら、簡単な話だ。

 君が、一歩踏み出してやれば良い。」


「迷惑じゃないですかね?」


「さあ?

 それは、一歩踏み出してからじゃないと

 分からないだろう。」


「でも、それで

 友達でいられなくなったら

 どうしたらって。」

日向の声は、どんどん小さくなっていった。


「月並みなことしか言えないが

 君たちは、親友なんだろう。

 なら、目を見て話すと良い。」


「目を見て?」

日向は、不思議そうに首を傾げる。


「そう、目を見て話すんだ。

 相手が本当に嫌がっている目なら

 待っていると言えばいい

 相手がためらっているなら

 話してくれって押せばいい。

 問題が解決しなくとも

 帰る場所があるのを分かっていれば

 多少なりとも楽になるだろうからね。」

僕は、心臓のあたりに痛みを感じる。

ジワジワと侵食されているのだろうか。


「分かりました。試してみます。」

日向は、パンっと音が鳴るくらい強く

自分のほっぺたを叩いた。


「それなら、行こうか」

そう言いながら僕は、コップに入った水を

結界にかけた。

水は、バシャと音を立てて結界にあたる。


そうすると、結界は、徐々に消えていった。


「それ、なんですか?」

日向は、不思議そうにコップを見る。


「これは、君の涙だよ。

 どんな原理かわからないけど

 これをかけたら

 結界が消えるんだよね。」


「そうなんすね。」

日向は、少し後退りをしていた。


そして、それから歩き、

ドラゴンの元についた。


「あれが夢魔だ。

 あれを倒せば、

 お前は夢魔から解放されるだろう。」


「はい!」

日向は、元気よく返事をする。

そして、剣を振りかぶる。

スパッとドラゴンは、真っ二つに割れ

墜落していった。


「軽快なる朝を」

僕は、日向に向かってそう言った。


僕は、そこで目を覚ました。


チュンチュン、鳥の鳴き声が聞こえる。


ふわぁと欠伸をし、顔を洗う。


そしていつものように、

夢魔に眠らされている人間が

辿り着くのを待つ。


けれど、今日は、来なかったみたいだ。


そして、夜になり僕は、眠った。


グサ、グサ、グサ、グサ

僕は、幾つもの植物に体を貫かれる。


まだ、意識は保っている。

けれど、朝になるまで耐えなければならない。

幸せになってくれ、

彼らの言葉が呪いのように心に縛り付き、

楽になることを許してくれない。


いつになったら、この夢魔を、

殺せるのだろうか。


いつになったら、

この痛みから解放されるのだろうか


僕は、

なんとか朝になるまで意識を保ち、

目覚めることができた。


それから一週間後、

僕は、日向のことが気になり

鳥を日向のところに向かわせた。


僕は、鳥を介して日向を見る。


車椅子に座った日向と

車椅子を押す親友であろう人物が

共に笑っていた光景が見えた。


僕は、安堵した。


カランカラン、扉が開き、

心地よいベルの音が鳴った。

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