第5話 『確認』

 検体採取容器の準備が完了するタイミングで、問診して下さるドクターが到着した。 ……結構、若そうな先生だ。


 出迎えた遠川とおがわ施設長との挨拶を済ませたドクターが私達に近づき「お疲れ様」と声をかけてくれた。こちらも答礼する。


 ドクターの胸の名札には『糸藤いとふじ』と書いてあった。


 ……?


 ……変わった名字だけど……何処どこかで見た記憶が……


 …………


 あ〜〜〜! り、理事長だ! 


『町野グループ』の理事長がみずからお出ましになるとは!


 ……あとから聴いた話だが、今回の集団PCRは、あまりにも急な依頼だったので、手のいているドクターが居なかったらしい。


 理事長は、以前お写真で拝見した事があったが、実物(←失礼)は印象と違って、気さくな感じだった。



 さて、入居者さまの問診は、ドクターと看護師が行うので、墨台さんは理事長の補佐に付き、私は問診が済んだ部屋に入って検体を採取した。


 施設の職員さんの案内に従って、問診と検体採取を進める。


 こちらも想像以上にスムーズに事が運び、30分以上早く検体採取が終了した。



 理事長を見送り、撤収準備を終えて、遠川さんにご挨拶した。


「本日は、遠くまでお越し頂き、ありがとうございました。 ……結果は明日には出ますかね?」


 ……以前も書いたが200人近い検査には9時間以上かかる。 ……とは言え、朝一番から始めれば、には結果を出せる計算だ。


「結果が出た時点で、順次報告しますが、 明後日なら確実にご報告出来ます」……と答えた。 こんな時に限って問題が発生したりするのが世の常だ。


「わかりました。 では、宜しくお願い申し上げます」


 墨台さんが「ご入居者様と職員様、どちらを優先致しましょう?」と言ってくれた。


 ナイスフォロー! ……って言うか、本来私が聴くべき質問だった。 感謝です!


「ご入居者様を優先して下さい!」


 ……このお返事が返って来るのは至極当然なのだが、この『確認』こそが、トラブルの抑止力となる。


『意思の確認』は、如何いかなる場面においても最優先事項だ。


「了解致しました。 じゃ、はるか……ご入居者様を優先で」


「はい!」


 ……このやりとりを見ていた遠川さんが、満足げに微笑んで頭を下げてくれた。


 私は小さく墨台さんにサムズアップしてペコっと頭を下げた。


 ……やはり、亀の甲より年の功(←失礼) 勉強になる!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る