第3話 トルネード

『プルルルルー プルルルルー』……と、聴き慣れない音がした。


 外線電話だ。


 ……今まで聞いていた町野中央病院の検査室の電話の音と比べるとかなり高音だ。


「はい、検査し……いえ、ピー・シー・アールけんせ……センターのはるかです」うわっ! 言い慣れないもんだから噛んじゃったあ!


「はるか……さん、初めまして。 私『健康推進事業部』の『辰巻たつまき 重男しげお』です。 中々挨拶が出来ず、すみません。 ……ケンタ……いや、墨台……居ます?」


「はい、代わります!」


 墨台さんを呼び、電話を代わって貰った。


 ……たつまき? ……さん!? ……凄い名前!


 電話を切った墨台さんが……


「遥さん『検体採取』……出来ます?」……と聴いてきた。


 臨床検査技師は、医師の具体的指示があれば、法律で定められた部位からの採血を許可されている。


 更に数年前から、それに加えて……


① 鼻腔拭い液、鼻腔吸引液、咽頭拭い液その他、これらに類するものを採取する行為。


② 表皮並びに体表及び口腔の粘膜を採取する行為。(生検のために、これらを採取する行為を除く。)


③ 皮膚並びに体表及び口腔の粘膜の病変部の膿を採取する行為。


④ 鱗屑、痂疲その他の体表の付着物を採取する行為。


⑤ 綿棒を用いて肛門から糞便を採取する行為。


 ……が、検査技師の業務として認められた。


 私は免許を取得してから数年しか経っていないので問題無いのだが、深田先輩やみやこ先輩、さらに五木技師長ぎしちょーは、免許を取ってからだいぶ経つので、上記の検体採取をするには講習を受ける必要がある。


 ……ってな訳で、私は問題無く検体採取ができるんだ。


「はい。 私は採取出来ます!」


「イイね!」……出た! サムアップ!


 ……続けて……


「……鷹音たかね市の施設で、サターンのクラスターが発生したそうだ。 遥さんが取れなかったら、俺一人で行かなきゃだったけど、助かった〜。 ……検体容器とスワブ……あとPPE防護服を用意して貰える? 俺、レッドゾーンセットと車、準備して来る」……と言った。


「何人分用意します?」


「……えっと……入居者……職員……濃厚接触者……予備……そうだなあ〜……200名分、お願い!」


 ……200めい……ぶん……っと……。


 ……!


 に! にひゃくめいぃぃ〜〜!?

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