第7話 移送

『バカヤロー! んなの、間に合うわけがないだろー!』


 ↑バカヤロー! んな言葉、上司に言えるわけがないだろー!


 ……ってなわけで、文句のひとつも言える筈が無く……


「……は、はぁ……只今、鋭意作成中ではございますが……期間があまりにも短く、現時点で、ファイリングまでは、体裁ていさいが整いません。 ……『綴紐とじひも』でも宜しいです……か?」……と聴き返した。


「それなら間に合います?」……と、質問に質問で返した質問を質問で返された←合ってます?


「はぁ……まあ……」……と、歯切れの悪い返事をするしか無かった。


「お手数をお掛けしますが、宜しくお願いします」『ガチャッ』『キーーーン』


↑手早く電話が切られ、耳鳴りだけが残った……。



「こんな朝から電話!?」……母が心配そうに聴いてくれた。 ……母は、昨日から目が充血している私を心配してくれていたんだ。


 ……保健所の監査の件を話すと、温和な性格の母も、さすがに表情を曇らせ……


「……それは酷いわね……。 真優まゆ、あなた、そんな所でやっていけるの?」と言った。


 ……いつもなら「大丈夫」……と言って苦笑いくらいで終わるのだが、今回は疲労の蓄積もあり「ふえ〜ん」……と、声を出して泣いてしまった。 ……二十代半ばの良い大人が……恥ずかしい……。


 母は黙って私のソウルフード「たまごサンド」と『飲む点滴』とも言われる『甘酒』を朝食に出してくれた。 ……そして……


「……少し早いけど、お父さんが東戸クリニックまで送ってくれるって」……と、父に送り迎えを頼んでくれた。


 ……疲れ切っていたし、何かフラフラするので、今回は甘える事にした。




 クリニックに到着し、検査室で作業を始めた。


 今までは、厚労省が開示しているテンプレートに沿って作成していたが、それでは到底間に合わない。 ……背に腹は変えられないので、PDFファイルをjpg化して、それをワープロソフトに貼り付け、やはりjpg化した文書をはめ込み、印刷した。 三日かけて作った文章も無駄では無かった。


 この方法は我ながら巧くいき、かなりのハイペースで文書が仕上がった。


 ……ファイルカバーを買いに行く余裕も無かったので、上記のように『綴紐』で縛って形にした。


 夜中の12時近くまでかかったが、何とか全ての書類が完成した。


 ……悔しいが、この時の感動は、今でも忘れられない……これが『クライマーズ・ハイ』ってやつ?


 帰りも父に迎えに来て貰ったが、実は、私は車内で眠ってしまった。


 翌朝……保健所の監査当日……



 私はベッドで、清々しい朝を迎えた。


 ……後から聴いたら、父、母、兄貴の三人がかりで、眠りこけた私を車から自室のベッドに運んでくれたそうだ。 ……死んだように眠っている成人の重さは、実体重よりも、かなり重くなると聴く。 かなり大変だったろう……。


 みんな……ゴメンね〜! テヘペロ〜←古!

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