第6話 馬鹿ぁ!

 私は基本、与えられた仕事に対して文句を言う事は無い。


 しかし、今回ばかりは、自称『菩薩の真優まゆ』も、あったまに来ていた!


 人間、やれる事とやれない事がある。


 ……とは言え……折角、私に『白羽の矢』を立てて下さった『町野グループ』の上層部の方々を裏切る訳にはいかない。 やるしかないのだわ。


 ……因みに、私は自分から動くのは得意ではない。


 いや『得意ではない』どころでは無い。 引っ込み思案の私は、基本的に受動体質で、趣味の『漫画』以外は、言われるがままの人生を歩んで来た。


 その私が! 友人やら先輩やら、検査センターと契約している卸業者さんやら……あらゆる手蔓てづるを使って情報を集める行動をとった!


 もし『締切』が無ければ、こんな必死にはならなかっただろう。 ……夏休みの宿題が間に合わない小学生のようだった。


 通勤とお風呂時間以外は書類作成に充てた。 無論、食事中も……だ。


 ……当然、眠っている時間など無い!


 ……3日目位になると、意識が朦朧としてくる。


 ひとつ新しい事を学習した。 ……『寝ちゃ駄目だ』と思うと、余計に眠くなって来るもんだ。


「ちくちょう! 豚だって、女子に『夜ふかしはするな』……って言ってくれてるのにぃ」……と、宮崎駿監督の名作『紅の豚』の一節を思い出しながら、悔し涙を流した。 


 ……4日目……悪い事は続くもので……


 朝、電話がかかって来たので眠い目をこすりながら出ると、穂上さんだった。


「遥さん、連絡が遅れてすみません! 明日、保健所が監査に来る予定でした。 ……書類、間に合います?」



 ……口が悪くてすみませんが、言わせて下さい。



 …………



『バカヤロー! んなの、間に合うわけがないだろー!』

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