第4話『地球上にネズミが居るか居ないか?』

 PCR検査センターで、まず眼を引くのは『安全キャビネット』という名前の、巨大なガラス張りの装置だ。


 ……中を覗くと『エッペンドルフ』という大きめのシャープペンシルのような形をした『ピペット』が数種類スタンドに並べてあり、これで『検体』や『試薬』を計量・分注する。

 更に、逆向きのマッサージ機のような『撹拌かくはん』や、可愛らしい小さめの『遠心分離器』などが整然と並べてある。


 ……一般の検査室も、患者さんからお預かりした『検体』を扱うので病気に感染する危険はあるが、今回の『サターンウィルス』はパンデミックを引き起こしている感染性の強いウィルスであり、その感染を疑う検体を扱う『PCR検査センター』は、特に強力な安全性を確保する必要がある。 その為、検者(検査する人)に感染させないように、常に中を陰圧にして気体を外に放出しないように設計された『安全キャビネット』が必要不可欠なのだ。


 ……因みに、鑑識科が活躍するテレビドラマにも良く似た装置が登場するが、こちらは『クリーンベンチ』と言い『検体』に混在コンタミネーションを起こさない為の物で、似て非なる装置だ。 クリーンベンチでは、感染性のある検体はあつかえない決まりになっている。


 検査センターに搬入した検体は、この安全キャビネット内で不活化(病原性を無くす処理)をしてから検査を開始する。 その為、不活化が完了するまでは感染の恐怖と闘う事となる。


 不活化処理をした後は、各々の設備によって方法が異なるが、此処ここでは専用の装置を使って、まず『ウィルス』の『RNA』を抽出し、その後、本番の『PCR装置』による検査を行う。


 ……詳しい説明は省くが、人体を『地球』の大きさと仮定すると、ウィルスは『ネズミ』程度の大きさになると言う。 ……私達の使命は、地球にネズミが居るか居ないかを証明する検査を行う事……なんだ!



 ……と、ここまでは良かったのだが……。


 成瀬さんが「……はるかさん。 今、穂上から連絡がありました。 『当院には、必要書類が一切無いので、先ずはその作成からお願いしたい』……との事です」


 え? う、嘘でしょ!? ……『何も無い』……って……『標準作業書』も『伝票』も……本当に無い……って……事ぉ!?


「……10日後に開業するので、それまでにご準備をお願いしたい……との事です!」


 私……目眩めまいがしてきた……。

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