第8話 親指

 真也しんやさんは、びっくりした様子で、それでも真摯に答えてくれた……


「前にも言いましたが、お恥ずかしい話ですが、僕は今迄、女性と付き合った事がありません。 中々出逢いが無かったから……。 でも、小説やドラマをて、とても憧れていました。」


 ……ウエイターさんが、飲料のおかわりを持って来てくれた。 高級レストランなのに、二人共、ウーロン茶だ。


 真也さんは……


「僕、いつもはるかさんとデートする時は電車移動ですよね。……何故なぜか判ります?」と逆に、私に質問した。



 私は、戸惑いながらも……少し考えて


「事故……とかに巻き込まれないように……ですか?」


「それもありますが」


 ……真也さんが、照れた表情で……


「『赤信号にならない為』……です」と言った。


 ……!?


「以前、何かの本で読んだ事があるんです。『女性は、デートの時に、相手との未来を想定している。 ドライブデートで赤信号ばかりだと、困難な未来を暗示しているようで、別れを切り出されるかも知れない』……って……」 


 その言葉で、私は全ての疑問が解消された。


 真也さんは、本当に女性と付き合った事が無いし、一番確信したのは……


 私と『別れたくない』と想ってくれている……って事だ。


 デートで失敗して、私が別れを切り出さないように……って、一生懸命に頑張ってくれてたんだ!




 私は、可笑おかしいのか、喜んでいるのか、もう、悲しいくらいの嬉しさで、うつむいて泣き出してしまった。


 真也さんは慌てて立ち上がり、私の背中に手を当てて、真新まあたらしいハンカチを差し出してくれた。

 

 ……ウエイターさんも、驚いて駆け付けてくれた。 


 私はぐに「すみません! 嬉し泣きです!」 と、ウエイターさんに伝えた。


 ウエイターさんは、笑顔で真也さんの肩を軽く叩き、ドヤ顔で親指を立てた。


 なんであんたがドヤ顔やねん!?

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