第5話 電力低下

 交差適合試験クロスマッチを続けていたが、どうも様子がおかしい。 遠心機が途中で止まるし、照明もたまに暗くなる。 蓄電池の電力が安定していないのかも知れない。


 技師長が、「クロス、一度中止しよう」…と言った。 緊急電話で、電力会社に問い合わせたが停電復旧の目処めどは立っていないそうだ。


 はっしーに教えて貰った雨雲レーダーを観ると、まだしばらく雷雨が続きそうだ。


 森さんの手術が始まって6時間、輸血を始めて1時間経つ。 手術オペ室から連絡がない所を見ると、手術は成功している…のか?


 …と考え始めていた時、内線が入った。放射線室レントゲンからだ。


 術中CT検査で、オペと反対側の脳からの出血が見つかり、脳圧が上がっているらしい。 そちらも緊急開頭になるから、改めて血算検査と輸血依頼が来る…と看護師の言葉を伝言してくれたのだ。


 まずい…。 蓄電池がいつ切れるか判らない上に、そんな大手術なら、輸血の効果を見るために、このあと何十回、血算検査をやる事になるか、想像がつかない。


 「五木さん…どうしましょう?」


 技師長は少し考えていたが、「そうだ、オペ室にある血ガス装置には、Hbハーベー Htヘマトクリットが付いてる。 一時、そっちで検査して貰おう」…と言って、オペ室に電話してくれた。


 オペ室は、検査室と違い、自家発電設備で電力を補っている。 そこにある検査機器なら、このまま停電が続いても、あと2日以上は安心だ。


 …私は血算装置が使えなかったら、学生時代に実習でやった、血球計算板と顕微鏡を使って、カウンターで『ひとつ、ふたつ』…と、血球を数える方法しか無い…と思っていたが、そんな手があったのか! さすがは技師長、『亀の甲より年の功』だ。


 技師長にその事を言ったら、あきれたように「はるか…顕微鏡」…と言われた。


 顕微鏡…?


 …あ! 顕微鏡も電気が無いと使えないんだった! てへっ!


 血液センターが毎年くれる、分厚い木の板で出来たカレンダーで、頭を軽く小突こづかれたのは、言うまでもない。


 …等と呑気のんきなやり取りをしていたら、オペ室から連絡が入り、10単位の輸血が追加された。 


 再びサイレンで臨時便を依頼して、伝票を取りに、オペ室に向かった。

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