第５章　痙攣発作

　外来からの連絡で技師長が呼び出され、　数分後に帰室し、『集合（しゅーごー）』をかけられた。

　警察から連絡が入り、収監中の囚人が痙攣発作を起こしたので、診察と脳波（ＥＥＧ）を依頼したい……と言われたそうだ。

　本来は警察病院で行うべきなのだが、何かの期限の関係で、大至急、検査の結果と、処方箋が必要らしい。

　深田先輩が「……で、罪状は？」と、刑事ドラマよろしく気取って聴いた。

「婦女暴行」

　……！

　深田先輩も、都（みやこ）先輩も、もちろん私も技師長に泣きつき、別の病院で検査して貰うように懇願した。

「ご、ごめん……冗談だよ！　罪状なんか教えてくれないよ」

　あ〜驚いた。質（たち）の悪い冗談だ。　屈強な警官が二人、見張りしてくれると言う。

　ほっとしたのも束の間、技師長が珍妙なポーズで固まっている。

　私が驚いていると、深田先輩が「五木さん、偶（たま）になるのよね……ギックリ腰……」

　技師長は油汗を流している！　「だ、大丈夫ですか？？」私が近寄ろうとすると　「頼む……触らないで……」と、やっとの思いで口にした。

　「そのままにしてあげるのが、本当の優しさみたいよー」　……と都先輩。

　ギックリ腰が『魔女の一撃』と呼ばれるのは有名な話だ。　コミカルな名前とギックリ腰を起こした人のポーズから、笑い話のように語られるが、その実（じつ）、この『一撃』を受けた人は、場合によっては数日間、動けなくなる恐れもあり、最悪、腰椎の手術をする必要性が生じる事もある、笑えない症状である。

　……深田先輩が、大売り出しの魚屋さんみたいにパンッと手を叩いて揉み手しながら「さ〜て、今日はこの後（あと）、五木さんは戦力外だから……だ〜れが脳波（ＥＥＧ）に行くか、ね！」

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