第3話 精虫

 女の子から渡されたハルンの定性は、『潜血 3+』…沈渣には、尖った鉛筆の先で引っ掻いたような細胞が散在している。


 紛れもなく、精虫スペルマトゾアだ。


 女性の尿中に精虫が見られるのは珍しい事ではない。 しかし、それはあくまでも『事前に性行為があった』という条件付きだ。


 もう一つ考えられるのは、検体の取り違えだ。もしかしたら、家族のハルンを持って来た可能性がある。


 いずれにしても、このまま看過するわけにはいかない。


 「技師長」


 …技師長に状況の説明をする。


 「…ずは本人のハルンかどうかの確認…だな」


 外来の長谷ながたにさんに連絡ししばらく待つと、内科の後藤先生と長谷さんが検査室に来た。本人は何も言わないが、事件性があるらしい。


 指紋採集もするとの事で、先生の指示でカップごと大き目の容器に入れ、長谷さんに渡した。


 その後、すぐに詳細がわかった。


 女の子の年上の友人が、やや強引に性交渉に及んだそうだ。…女の子は妊娠を心配したが、それを言えずに悩んだ末、腹痛を理由に来院したらしい。


 すぐ産婦人科ギネに相談し、経口避妊薬を処方された。



 …事件ではなかったのが不幸中の幸いだが、女の子の気持ちを考えると、とてもつらい。 あの、走り去る姿を思い出す。


 私も、いつか子供を授かる時が来るだろう。 その時は愛する人に、真っ先に喜んで貰いたい。 そして、家族や友人にも祝福して欲しい …そんな事を考えていた。

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