生食

バブみ道日丿宮組

お題:日本式の魚 制限時間:15分

生食

 生で様々なものを食べる文化が日本にはあるという。

 野菜とか、魚とか、肉とか。

「……ぬぬぬ」

 正直言って、食べられる気がしない。

「そんな睨まなくてもなくならないよ」

「そ、そういうことじゃなくてさ……」

 今日は恋人となった私が彼の家族とはじめて会った日。

 その帰り道によったお店で彼が頼んだのがテーブルに並んでるのだけど、

「生駄目だった? 結構行けると思うんだけどね」

 ぱくぱくと次々に口に入れてく彼は余裕だ。

 生魚、生野菜、その他色々を美味しそうに食べる彼はとても魅力的だ。

 自分も食べればそうなれるだろうか……。

 いや……わからない。

 だって、食べたことないのだもの。日常では彼が私に合わせてご飯を作ってくれたから、食べる機会なんてなかった。何事も経験だよと立ち寄ったのがこのお店だったりするのだが。

「うん、美味しい」

 そりゃそうだよね。日本人だもの。日本食が駄目なわけがない。嫌いな人はいるだろうけど、全てが嫌いという人はいないだろう。少なくとも子どもの頃から食べてることに変わりはない。

「これってさ、本当に食べられるの? すっごい生臭いよ? 腐ってるんじゃないの?」

 刺し身と呼ばれる魚の赤身をフォーク(箸が使えないため店員にたのんだ)で刺して、持ち上げる。

「川魚だったらもっと臭くて食べれないけど、この海魚は海のものだからね。だいぶ違うよ」

「???」

 違いがよくわからなかった。

 魚は、魚でしかない。上とか下とか、真ん中とかそういうことはない。

「慣れておこうよ。今後はうちで泊まることもあるだろうし、その時食べなかったら父さんたちびっくりしちゃうよ」

「そ、そうだね……」

 決心が鈍りそう。

 でも、食べないわけにはいかない。

 この店には私が好きな洋食はない。和食を食べるしかないのだ。

「あ……あむ」

 口に入れ、目をつむり、噛む。

「あ、あれ……?」

 思った以上に生臭さはなかった。

「いけそう?」

「う、うん。美味しいかも」

「次はこの醤油っていうタレにつけてごらん」

「わ、わかった」

 先程と同じ用にフォークで赤身をぶっ刺し、醤油と呼ばれるものに浸す。

「そんなにつけなくても大丈夫だよ」

 そういうものなのかと、醤油から離し、口に運ぶ。

「美味しい。なにこれ? フォアグラみたい」

「三大珍味と同じなのか」

「うん、味は似てないけど、そんな食感がある」

 じゃぁ次はこれねと、その後も彼がおすすめする生食を楽しんだ。

 意外にいけるものなんだと、生食への偏見をなくしたのであった。

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生食 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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