五十三話 練習の成果

 相手チームを三人外野へ送り込んだ後、あまりにもヘイトが高まったのか、集中的に狙われた俺はやがてボールを弾き、外野へ回ることになった。

 チラと観客席の方を見れば、七星さんが拍手を送ってくれている。


 達成感を覚えながら外野で動き回っているうちに、試合が終わった。

 初戦はギリギリ俺たちのクラスが勝てた。

 体育の授業では大して働かなかった俺が活躍したことが意外だったのか、周りの連中が「やるじゃねえか」などと言いながら肩を叩いてくる。


「悠斗があんなプレーをするなんてね。僕の遺志を継いでくれたってことかな」

「俺のさっきのプレーのどこにお前の遺志を感じたんだよ」


 こいつ外野でダラダラしてただけだろ。

 謎に爽やかな笑みを浮かべて近付いてくる大河をあしらいながら俺たちの席へと戻る。


 入れ替わりでうちのクラスの女子の試合が始まるらしく、隣のコートに七星さんたちが移動していた。


 同じ男子の試合よりも同じクラスの女子の試合の方が気になるというのが本能というものなのか。

 周りのクラスメートたちと同じように、俺も女子の試合へ目を向ける。


 何人かは試合が始まる直前、コートの中で髪を結び直していたが、七星さんも彼女たちと同様に一度ゴムを外してポニーテールを結び直していた。

 傍目から見ても気合が入っているように見える七星さん。


 やがて笛が鳴り、試合が始まった。


 女子も男子もコート内の構造は似通っている。

 体育系の部活に所属している者が前線をはって、普段大人しい者は後方や隅の方であたふたとしている。

 七星さんはその後方のグループに属している。


 あたふたと動き回る七星さん。

 その可愛らしい動きに反して表情は真剣そのものだ。


 明らかにやる気のない者が脱落し、続いて複数人で固まって動いでいたグループが徐々に削られ、段々と内野の人数が減り始めた頃。

 ついにその時が来た。


 ボールが敵チームの外野へ渡る。

 ボールを捕った生徒のすぐ近くには七星さんがいる。

 当然、狙いも七星さんへ向く。


 投げられたボールの軌道は軽い放物線を描きながらも、練習の時よりも速い速度で七星さんへ迫る。


 俺は思わず膝の上で拳を握る。

 どうしてか物凄く緊張する。


 胸元へ投じられたボール。

 七星さんは目を開いてボールの軌道を追い、そして――。


「捕ったっ」


 小声だが、歓喜の声を零してしまう。

 周囲のクラスメートが訝し気に、そして大河がにやついた表情で注目してくる。

 彼らを意識しないように努めて、七星さんの動向を追い続ける。


 七星さんは受け止めたボールの存在を一瞬確かめるようにしてから、敵チームの内野へと投じる。

 ボールは敵の足下に逸れ、ワンバウンドしたところをキャッチされた。


「――っ!」


 ふと、コート上の七星さんが俺の方を向いてきた。

 俺と目が合うと、七星さんはとても嬉しそうな満面の笑顔を浮かべてこちらにピースしてくる。


 俺もサムズアップを返そうとして、しかし慌てて声を上げた。


「七星さん、前、前!」

「……っ」


 俺の声に七星さんが反応するが、それよりも相手の動きの方が早かった。

 敵チームから投げられたボール。

 それが七星さんの膝に見事に当たった。


「…………馬鹿すぎる」


 目の前の悲劇に俺は頭を抱える。

 しゅんと両肩を落として外野へとぼとぼと向かう七星さん。


 ……まあ、練習の成果は出せたし、いいか。

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