十七話 やりたいこと

「どこか行きたいところとか、やりたいこととかってある?」


 お昼休み。

 すっかり慣れ始めているレストランでの昼食の場で、俺は早速切り出した。

 ……昼食代が浮くのはいいけど、この生活に慣れるのはなんだか良くない気がする。


 俺の問いに七星さんは一瞬戸惑ったが、すぐにゴールデンウィークのお出かけ絡みの話だと思い至ったのか、納得した様子を見せてから考え始めた。

 サラダを食べ終えるまで真剣に悩む様子の七星さんをぼんやりと眺める。


 いつもの笑顔とはまったく正反対の真面目な表情がそれはそれで新鮮に映る。

 教室では後ろ姿しか見えないから、こうして正面で相対すると彼女の表情の豊かさに気付かされる。


 あんまりジッと眺めていると失礼かとも思って、俺は手元に視線を落とした。


「お部屋に……」

「ん?」

「赤坂さんのお部屋に行ってみたいです」


 顔を上げると、七星さんがキラキラと目を光らせていた。

 俺の部屋なんかにどうして来たいんだろうと不思議に思いながらも、俺は「あー」と苦笑いした。


「俺の部屋はちょっと……」

「っ、ご、ごめんなさい」

「いや、七星さんに来てほしくないとかじゃないんだけど、狭いし、何もないし……」


 体を縮こまらせて申し訳なさそうにする七星さんに慌てて補足する。

 実際ゲームとかもないし、俺の部屋も四畳ぐらいしかない上に誰かをもてなせる家具も何もない。

 何より親父がいるかもしれない。

 もしいなくてもあの家に七星さんを近付けるのはなんだか嫌だった。


「とにかく、俺の部屋はなしで。他に何かないかな。できればあまりお金のかからないところがいい」


 情けないことだが、七星さん相手に今更取り繕う必要もない。

 そもそもお昼を毎日ご馳走になっている時点で恥も外聞もないのだ。


 俺が改めて断ると、七星さんはしゅんとした。

 とても残念そうだ。


 七星さんは再び考える仕草を見せて、はたと気付いたように口を開く。


「お金はわたしが持ちますよ?」

「マジで! ……あ、いや、それはちょっと流石に」


 危ない。ついデート代も全額負担してもらおうとするところだった。

 流石にそれはまずい気がする。

 ……いや、本当、お昼をご馳走になってる時点で今更だけど、ほんと。


「では、赤坂さんがやりたいことを一緒にやりたいです」

「俺のやりたいこと?」

「はい! 例えばこういうデートがしたいとか、そういうのでも!」


 またしてもワクワクした様子で七星さんは言ってくる。


「俺がやりたいこと……したいデートかぁ……」


 ぼんやりと考えてみるけど、特に何も思いつかない。


「……その、難しいようでしたら、赤坂さんが以前に体験したデートコースでも大丈夫ですよ?」


 恐る恐るといった感じで、七星さんが付け加えてきた。

 チラチラと俺を窺っている。

 悪いけど、デート経験があればここまで悩んでいないと思う。


「体験したことがないからわからないな」

「――そ、そうなんですか」


 七星さんは意外そうに目を見開いた後、えへへと小さくはにかんだ。

 ちょっとバカにされたような気がする。

 ……最近よくバカにされるなぁ。


「一応確認するけど、俺が考えると平凡で色々と不便で不自由かもしれないけど、大丈夫か?」

「大丈夫です!」

「……なら、色々と考えてみるよ」

「楽しみにしていますねっ」


 あまり楽しみにされても困るが、そういうことなら頑張ってみるとしよう。

 幸い俺には大河という相談相手もいるしな。

 また頼りにさせてもらおう。

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