第35話 バイドの過去(2)

正確には昇格した、というほうが正しい。彼は絶望と怒り、その二つで自分の能力を進化させたのだ。もちろん、そこで『極点』に至った。実に12歳の時であった。

「うああああああ!」

少年はナイフを持ち、その騎士に向かい走る。

「ふん。愚かだな。力量差を理解し、少しでも逃げ惑えば良いものを。」

そういって対応しようとした瞬間。


避けられた。どころか攻撃が当てられかけたのだ。


驚きで少し飛び上がって下がる。

(何が起きた?今確かにこの蛆虫を駆除したはず……なのに何故こいつは避けるどころか、私の首を狙ってきた…⁉︎この虫……いや、少年は明らかなだ!ここで殺さなければ確実に我が国の損害になる!)


とうとうこの騎士、12席の閃光、ファズム・トーカーが本気を出した。

「喰らえ!『加速』『速度上昇』『筋力上昇』!一閃!」

12席の閃光、というのは上位騎士の中でもエリートの者たちが集まった12の騎士たちの、序列最下位の事をさす。だが、最下位とは言ってもその実力は折り紙つき。こんな子供に使う技ではないが……。


「ふっ!」

難なく避けてきた。更に、

「⁉︎なっ!」

「ああああああああああ!!!!!!」

ドンッ!


心臓を一突き。その一撃で心臓を潰された騎士、ファズムは………死亡した。


「…………………ぁ。」

______________________________________

それから俺は、にあった。師匠は俺に体術、戦術、世界の基礎知識を教えてくれた。そうやって俺は成長してきたんだ。

師匠は俺に名前を教えてくれる事はなかった。ただ、女だということ。既婚者で今は少し離れているという事。夫とは中が良く、とても円満に暮らしていたがある目的の為に一旦離れる事にしたと。

別に師匠に恋をしていた訳じゃない。俺が恋い焦がれているのは別の女性だったから。

そんなある日、師匠は急に消えた。

『もう教える事はない。時は来た。私は夫の所へ帰る。元気で。』

そう書かれていた。

少し寂しかったが、泣く事はなかった。

「師匠も……御達者で……。」

______________________________________

その後、俺はその察知能力の高さゆえ、色々な所に雇われた。最初こそ人気はなかったが、裏の世界では十分な人気があった。用心棒として。

今回も、デーブルに研究の邪魔をする輩がいるかもしれないので防犯の手伝いをしてほしい、という依頼だった。まさかこんな事になるとは思ってもいなかったが。



この回想は、全て今殺されかけているバイドの走馬灯である。

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