第8話
「アルコ、今日はお前の誕生会だ!」
「………は?」
朝食の途中、父上の唐突な発言思わず熱々の紅茶を零しそうになった。
何とか零さずに堪えながら、ゆっくり父上の方に向く。
「誕生日は三日先なんだけど?」
「ピッタリ合わせる必要などあるまい。その日はお前と妹との再会だ」
「(……妹、か)」
ピタリと、一瞬紅茶を飲む手が止まる。
妹。
ソレは俺にとっては未知の存在。
一人っ子だった『僕』はどうやって接したらいいのか……。
いや、今はソレを考えるべきではないか。今は目の前のことに集中しよう。
「分かった。いつから始まるの?」
「夜だ!」
……時間を聞いてるのになんで夜って単語が出るんだよ。ちゃんと数字を言え。
「じゃあ、ディナーパーティってこと? お客さんはいつから集まるの?」
「そうだ。夕方から来客が集まるからおめかしをちゃんとするんだぞ!」
「うん! 分かったよ父上!」
出来るだけ子供っぽく答えたが、親なら気づくだろうか。……いや、大丈夫だろう。
このやり取りはここ一年間ずっとやってきたが、誰も気付くことはなかった。だからこれからも大丈夫のはずだ。
「ではパパは先に娼館…お仕事に向かう! ちゃんとお勉強するんだぞアルコ!」
「うん! いってらっしゃい!」
おい、今娼館って言ったろ? ソレを仕事に行くって誤魔化したろ? ソレって大人としてどうなの?
そんな怒りを押し殺しながら、おれは子供として演技する。
「……はぁ~。父上にも困ったものだ。紅茶のお替りをお願いできる?」
「ハイ、アルコ様」
メイドに紅茶を入れてもらいながら俺は父上の愚痴を零す。
父上を一言で表すなら無能だ。
領地経営を面倒くさがって部下に押し付け、自分は何もしない。
強いて貴族としていいところを上げろというなら、過度な贅沢をしてない点と妾は作ってない点か。
もっとも、ソレも面倒くさがっているからだと俺は思うが。
「(……まあ、今のところちゃんと領地も回っているからいいか)」
仕事を部下に押し付けることが悪とは限らない。
そもそもトップの仕事は人を使う事だ。下の者が優秀なら動かなくても問題ないだろう。
朝食が終わってから俺はいつも通り軽い筋トレとランニングを行い、風呂に入った後で魔力トレを行う。
本来なら妹との接し方について考えなくてはいけないのだろうが、あいにくその時の俺の脳みそには、妹のことなんて飛んでいた。
アレだ。試験期間なのに他の事に集中して逃げようとする受験生と同じ行為だ。
後、まだ三歳児相手ならいくらでもなるだろうという余裕もあった。
こっちは見た目こそ子供だが中身は高校生だ。最近脳みそのせいで幼児化しているが、ソレでも子供相手に余裕をなくすほどではない。
ちゃんと妹として接すれば何とかなる。だから気張る必要なんてない。
そんなことを考えているとあっという間に夕方となり、パーティが開催される。
お誕生会は盛大だった。
父上の簡単な紹介の後に簡単なスピーチの後に、簡単な挨拶。
来客達も子供の挨拶などには期待はしてないであっただろうが、こっちは転生者だ。
無理やり押し付けられた学級委員の仕事よりも大分楽だ。なにせ前世と違ってここには『僕』を見下す視線がないからね。
『ちゃんと喋れよ委員長~』
『全然声聞こえないんですけど~』
「……」
思い出すな。
ここはもうあの世界じゃない。アイツらはもういないんだ……。
「皆様方、本日は我がお誕生会にご足労頂きありがとう御座います。
この身はまだ未熟ですが、オルキヌス家の長男として恥じぬよう、そして皆様のような素晴らしき貴族になれるよう、努力を続ける所存であります」
作り笑顔を浮かべ、出来るだけ簡単にまとめる。
早口にならぬよう、かといってゆっくり過ぎず。
一点だけ見つめるのではなく、全体を見渡して。
言い終えるとさっさと壇上から降り、父上の元へと戻った。
思った以上にちゃんとしたせいか、来客の貴族達は感心した様だった。
先ほどから挨拶という名のおべっかに応答しているが、流石に全部は覚えてられないので、あまり関わりのなさそうな相手は忘れることにした。
ただ、周囲の大人たちからすれば、6歳児が大人たちの挨拶に受け答えし続けるのは優秀な子供だと思ったらしい。
俺も同じ立場ならそう思う。前世の6歳児の『僕』なんて机に十分もいられなかったからね。
俺と挨拶した貴族たちは両親と雑談しているが、その内容は俺のべた褒めである。
正直、褒められ慣れてないので落ち着かないが、これからのことを考えるなら逆に都合がいい。
俺がフラグを潰すためにこの家の実権を握るためにな。
約一時間後、来客との挨拶を済ませた俺は飯を食い、すぐベッドへとダイブした。
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