水曜日

第573話 南の島での神幸祭

「ガジュたち張り切ってるなあ」


「ちょっと恥ずかしいです……」


 放課後。昨日のベル部長のライブを鑑賞中。

 エメラルディアさんに運んでもらった翡翠の女神の木像を、南の島にある教会に置くっていうお祭り? 神事っていうべきなのかな?

 どうやって運ぶんだろうと思ってたんだけど、キジムナーたちのサイズに合わせたお神輿みたいなものに女神像が載せられている。

 事前にルートが決まってて、そこをわっしょいしながら練り歩いていくんだけど、沿道にいるプレイヤーさんたちからの歓声がすごい。


「こんなに人集まったんすね」


「これでも予想よりは少ない方よ? ワールドクエストの方に行った人も多いもの」


「マジすか……」


 ワールドクエスト『悪魔が来たりて』のラストが魔王国の南の古代遺跡が舞台ってことで、戦闘メインのプレイヤーはそっちに行ってるらしい。


「見に来てくださってるのは生産メインの方々ですか?」


「ええ。特に死霊都市を本拠地にしてる人たちが多いわね」


 店を構えてる人たちも、今日はそっちをお休みにして来てたりもいるんだとか。

 キジムナーの里を出たお神輿は、門前町を抜けてアームラの森へ。そのまま北の参道へと進んでいく。


「おお!」


「すごいです!」


 崖をくり抜いた感じの参道にフラワーアーチだっけ?

 それがいくつも設置されてて、すごいことになっている。


「作ってくださったのはディマリアさんですか?」


「ディマリアさんと、園芸好きのプレイヤーさんたちね。ノームの子たちも手伝ってくれたから、かなり自信があるって言ってたわよ」


「「あ!」」


 そりゃすごいと思ってたら、フラワーアーチの陰から出て来たノームやケット・シーがお神輿の担ぎ手に参加し、さらにわちゃわちゃした状態で教会に到着した。


「教会の前もすごく綺麗になってますね」


「だね。一回行ってみたいけど、うーん……」


 もう他の島に行けるのはバレてるだろうけど、いつにするかは悩みどころ。

 ゆっくりとお神輿が下されたあと、教会の扉が開かれた。

 妖精たちに抱えられた翡翠の女神の木像がゆっくりと進み、最後に祭壇へと設置されると、淡い緑の光があふれて広がっていく。


「はぁ、良かった……」


「良かったです」


 うちの島の教会でセーフゾーンが出来て、南の島で出来なかったら気まずいなあと思ってたんだよな。

 俺がミオンそっくりにしちゃったせいで、ミオンにまでプレッシャーを掛けてるようで申し訳ない感じ。

 そんなことを考えていると、楽器を持ったプレイヤーさんたちによる、IROのテーマBGMの演奏が始まった。


「こんにちはー」


 それを聞いているところでヤタ先生が登場。職員会議は早く終わったっぽい。

 VRHMDをかけ、俺たちの鑑賞会に参加。


「教会は常時開放してるんです?」


「それなのだけど、この島に来たケット・シーが居ついちゃってて、その子たちの気分次第になってるわ」


 あー、うちと同じ感じになってるのか。ケット・シーにとって、なんか住みやすいんだろうな。

 あと、設置された木像には近づかないように柵が設置されてたりもするんだけど、


「一つ問題というか、二人に相談したいことがあって」


「「?」」


「誰が最初かわからないのだけれど、参拝した人がお賽銭を置くようになっちゃったのよ」


 えええ、お賽銭って……

 参拝した人が銅貨一枚とかを置いていくうちに硬貨の山ができあがって、それをどうするかは俺たちに任せたいと。


「日本人らしいですねー」


「神社じゃなくて教会なんですけど……」


 俺とミオンで決めていいって話なら、そりゃもう教会のメンテナンス費用一択かな。参道のフラワーアーチとかだって、ちゃんと手入れしないとだろうし。


「それでいいよね?」


「はぃ」


「今日のライブで言っておいた方がいいでしょうねー」


「ええ、お願いできるかしら? できれば、ギルドからの依頼を出してもらう方がいいわね。うちばっかり引き受けるのも問題でしょうし」


 てか、『白銀の館』は王国のアミエラ領が本拠地だし、いつまでも南の島でってわけにもいかないよな。

 当面は(妖精好きな)有志の人たちが喜んでやってくれるってことだけど、その人たちの手間賃ってことにしよう。


***


「じゃ、よろしくお願いします」


「ぁぃぁぃ」


 竜籠にはたくさんの野菜と調味料いろいろ。

 南の島のキジムナーの里まで飛んでもらって、ワールドクエストが終わるまでは向こうに居てもらう予定。

 ドラゴン姿に戻ったエメラルディアさんが竜籠をがっしりと掴んで、ふわっと浮かび上がる。

 調味料を入れてある瓶が割れ物ではあるけど、木綿布をしっかりと巻いて、緩衝材にしてあるので大丈夫のはず。


「ニャ……」


「うん、俺も怖い」


 前にアズールさんに空輸されたシャル。俺と同じで高い所は苦手らしい。

 南の空へと飛んでいったエメラルディアさんを見送ったところで、今日のライブの準備をしないとかな。


「今日のライブは実況スタイルでいい?」


「はぃ」


 前回はミオンが側にいて現地レポート方式だったけど、今回はスタジオからの実況方式の予定。

 基本的には屋敷や港でのんびりなら現地レポートで、俺が未開地へ行く時は実況方式のつもりだけど、今回はお試しってことで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る