第572話 竜は見かけによらない

 今日の夕飯は秋鮭の竜田揚げにレモンをぎゅっと。千切りキャベツもどっさりで、ちょっと食べ過ぎたかな。


「ほう! まさか、サバナ殿の島にあろうとはの!」


「正直、予想外だよな。無人島で見つかるとは思ってなかったよ」


 普通に土に生える陸稲りくとう。原種なのかな?

 それなら本土にもあっておかしくないと思うんだけど。


「本土ではコハク、小麦を使ったパンが主食ゆえの。ハクはあまり普及しておらんかったのではないか?」


「なるほど」


「それと、エメラルディア殿が見つけたのが陸稲という話であったが、放置された水田が野生化したものやもしれん」


「あー……」


 サバナさんの島にあった古代遺跡は港湾設備。しかも、大きな船が立ち寄る中間港だったわけで、かつては賑わっていたはずなんだよな。


「そのあたり、現地で見てみないとなんとも言えんがの。結果的にハクが手に入れば問題なかろうて」


「まあ……、そうだな」


 早くハクの実物を見たいところだけど、サバナさんを急かすのもなあ。


「あ、そういえば、サバナさんの島への差し入れって定期的にやってるのか?」


 支援物資を渡すときに植物図鑑も一緒にって話になったんだけど、そもそも差し入れが続いてると思わなかったんだよな。

 次の支援物資を渡すタイミングっていつだろう?


「定期的にというほどではないの。サバナ殿の都合もあるのでな。都合の良い日時はシーズン殿から連絡が来ることになっておる」


「なるほど」


 お互いの都合のいい日時を合わせてって感じらしい。なら、割と早いタイミングで植物図鑑も届きそうかな?

 というか、早くワールドクエスト終わってくれないかな……


***


「じゃ、いってきますね」


「うん、気をつけて。ルピ、スウィー、アト、よろしく」


「ワフ」「〜〜〜♪」「ゥゥ」


 放課後にミオンとエメラルディアさん、おまけでスウィーにも植物図鑑を見直してもらい、改めてギリー・ドゥーの住む森を見回ってもらうことになった。


「ぅぅ、かぁぃぃ……」


 あとまあ、エメラルディアさんをギリー・ドゥーたちに紹介する意味も含めて。

 俺も一緒に行きたいところだけど、ステンドグラスが作りかけで中断してるし、そっちを優先したい。

 白竜姫様はお昼寝中。目を覚ましたら、見てくれているエルさんが呼びにきてくれるはず。


「よし。集中してやろう」


 ………

 ……

 …


「クル〜?」


「ん? どうしたの、ラズ。って、ああ、休憩しないとだね」


「クルル〜♪」


 嬉しそうに頬を擦り付けてくれる。

 普段はカーバンクルたちと一緒にいたり、リゲルと一緒にいたり、ギリー・ドゥーたちのところにいたりと自由なラズ。

 今日はミオンたちについていかずに、白竜姫様とお昼寝してたはずで……


「白竜姫様も起きたのか。じゃ、おやつにしよう」


「クルルン♪」


 ステンドグラス、半分ぐらいはできたかな?

 ただ、やっぱり足りない色、赤と黄色の部分をどうしたもんだか……


「お疲れ様。お茶とおやつを用意したので一休みするといい」


「ありがとうございます」


 作り置きしてあったクッキーかな。いや、ミオンの手伝いをしてくれてるおかげなのか、最近は自分でも作れるようになったって聞いたし。

 おっと、白竜姫様の「まだ?」って視線が……


「いただきます」


「いだきま〜す」


 お、いつかに作ったジンジャークッキー。

 いい味だけど、そろそろ緑茶とか欲しいところ。あんこが作れるようになったし、ハクも手に入りそうだし。


「エル〜、エメラは帰ったの〜?」


「いえ、ギリー・ドゥーの森に行っています。そろそろ帰ってくるころかと」


 そういや何時なんだっけ? ……午後10時過ぎか。なら、そろそろ帰ってきそうだよなと思ったところで、


「ワフ!」


 玄関の向こうから元気なルピの「ただいま」が聞こえてきた。

 いったんお茶を置いて玄関へと。


「おかえり」「おかえりなさ〜い」


「はぃ、ただいまです」


「〜〜〜♪」「ぁぃ」


 さっそく白竜姫様の肩へと飛んでいくスウィー。仕事した風に汗を拭う仕草。その様子にちょっと苦笑いのミオン……


「何か新しいもの見つかった?」


「ぁ、はぃ。これです」


 手のひらに載せて見せてくれたのは、人差し指の先ほどの赤い実。

 さっそく鑑定してみると、


【カニーナの実】

『カニーナの果実。種子を取り除いた果肉は酸味が強いが美味。

 素材加工:果肉を加工したものは食材として利用可能。調薬:ヒールポーションの原料となる』


 ってことは、ジャムとかにすればいいのかな? 野いちごって見た目じゃないけど。

 俺がそんなことを考えてると、


「乾燥させるとお茶になるそうです」


「ぁぃぁぃ」


 へー、お茶ってことはハーブティー? あ、ローズヒップかな?


「二人とも。まずは座って一息つかないか?」


「ああ、すいません」


「はぃ」


 ってか、白竜姫様とスウィーはさっさと応接室へ戻っちゃってるし。

 それに、ルピにもご褒美をあげないとだよな。


「あ、そういえば、シャルとクロは?」


「クロちゃんとはそのまま森で別れました。シャル君はパーン君に報告に行くと」


「報告?」


「はぃ。エメラルディアさんがこれを見つけてくれたので、それを早く渡したいって……」


 そう言ってミオンがインベントリから取り出したのは、


「ゴボウ!」


「ぁ、やっぱりゴボウなんですね」


「うん。店で売ってるのは、かなり綺麗に洗ってあるからね」


 きんぴらもいいし、鳥ごぼう、サラダ、天ぷら、汁物もいいなあ。

 あとはチップスとか、スウィーたちも好きそう……


「でも、よくわかったね。俺は見つけられそうにないなあ」


「エメラルディアさんが、地面に見えてた葉っぱから『バードック』っていう名前で食べられるからって」


 ちなみにクロたちも知らなかったらしい。

 やっぱすごいんだな、エメラルディアさん。


「ぅまぅま」「クルル〜♪」


 ジンジャークッキーを幸せそうに食べてる姿がラズそっくりで……、まあ、うん、人は見かけによらないってことだよな。

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