第570話 意外な人・物・場所

 出来たてのあんこの甘さがバターのまろやかさと絶妙に調和。

 カリッと焼いたバゲットのトーストは、その香ばしさで暴力的な甘さを緩和し、やや固めの外側も、じゅわっと染み込んだ内側も、その食感を楽しませてくれる。


「うん、美味しい」


「すごく美味しいです……」


 目を丸くして驚いているミオン。

 今までにお高いお菓子、和菓子なんかも食べたことありそうだけど、実際に出来たてのあんこは初めてだろうしなあ。……フルダイブだけど。


「〜〜〜♪」「「「〜〜〜♪」」」


 スウィーたちにも満足いただけたようでなにより。

 そして、白竜姫様なんだけど……


「とても美味しいわ」


「姫?」


 一つ食べたところで覚醒して、すぐさま二つ目に手をつけ始めた。

 覚醒したからか、食べ方も楚々とした感じになってるんだけど、口へと運ぶペースがすごい。

 いや、それはいいんだけど、これってやっぱりあんバタートーストのせい?


【(仮)あんバタートースト】

『ウリシュクが作ったアズキの餡とアンバーナウトのミルクから作られたバターを、妖精のバゲットトーストに載せたもの。(解説修正、追記可能)

 効能:MP回復1分ごとに+10。持続時間30分。

 料理名:(未定)、作成者:ショウ』


 ……え? これ、やばくないか?

 セスの話だと、1分ごとに+5が15分って話だったけど、回復量も持続時間も倍になってるし。


「ショウ君?」


「あ、ごめん。このあんバタートースト、MP回復量がヤバいことになってる……」


 そんなやりとりが聞こえたのか、白竜姫様が手にあったそれをパクっと食べ終えてから話し始める。


「調子が良くなったのはそのせいかしらね」


「アルテナちゃんは、普段はマナが足りてないからですか?」


「ええ、そうね。二人にはちゃんと話しておいた方がいいかしら」


 ちらっと目配せされたエルさんが、大きく頷いて話し始めた。

 自分は説明しないで食べる方を優先らしい……


「姫が厄災が起きた古代遺跡を止めた方法について、二人は知っているか?」


「ええ。大量のマナを無理矢理流し込んで、過負荷で装置を壊したって」


「ああ、その通りだ。だが、その反動で、姫は常時マナを放出するようになってしまってな」


 普通は体内のマナは周りから吸収して増える、つまり、MPは自然回復するはずが、白竜姫様は自然減少してる状態らしい。

 眠っている時間を増やしたり、思考を幼児化させることでそれを抑えこみつつ、その体質が治るのを待っていると。


「じゃあ、これを食べるとそのマナ放出が抑えられる?」


「そうね。体からマナが抜けていく感覚が無くなったわ」


 なるほど。ちょうど釣り合った感じなのかな?

 いや、でも、これって治ったって話じゃないよなあ。

 ミオンもそれに気づいたのか、


「食べ過ぎるのもダメですよね?」


「ダメってほどじゃないだろうけど、根本的な快癒に向かってるかっていうと微妙な気が。それにまあ、栄養が偏るのは良くないし」


 食事療法的なことができるといいのかな? 実際、薬膳マスタリーってそういうスキルだと思うけど。


「アルテナちゃん。それで終わりにしましょう」


「……そうね」


 もう一つ食べようと手にしたそれをじっと見つめ、そのままスウィーたちの皿へと移した。

 話を聞いていたからか、それを見つめるスウィーも微妙な表情で手をつけずにいる。


「〜〜〜……」


「私がもらっていいだろうか?」


 エルさんが気を使ってくれたんだろう、その問いかけに頷くスウィー。

 なんとも言えない雰囲気になったんだけど、


「気にすることはないわ。この島に来てからは、症状もかなり改善したもの」


「島での生活のおかげですか?」


「ええ、そうね」


 このまま、うちの島でゆっくりしていれば、だんだん良くなるだろうとのこと。

 食事の影響が大きそうだし、もっと栄養バランスを考えた上で、美味しいものを作らないとなあ……、あっ!


「料理の本とかって本土にあったりするのかな?」


「あると思います。次の依頼で募集しますか?」


「そうだね。お金はこの間、たくさん稼げたし」


 むしろ、使い切れるのか悩むレベル。

 今度また募集しても、お金よりはワインでって言われそうだけど。


「あとは食材だよなあ。やっぱり、お米が欲しい……」


「コメ?」


「あ、えっと、ハクっていうコハクに似た穀物なんですけど、竜の都にあったりします?」


 ハクがあれば、味噌に醤油、みりんなんかも多分作れるはず。当然、日本酒も。

 あとはやっぱり白ごはんが食べたい……


「私はそういうことには詳しくないが、エメラルディア様ならご存知のはずだ」


「「え?」」


 斜め上の人の名前が出てきて、俺もミオンも思わず驚きの声を出してしまう。

 エルさん曰く、エメラルディアさんは動植物の知識がすごいらしい。


「全然そうは見えませんでした」


「俺も……」


 ただ、言われてみると、妖精や幻獣が好きっていうのにも納得?

 人付き合い(竜付き合い?)が苦手な分、興味がそっちにいっちゃってるんだろうなあって。


「さっそく聞いてみたらどうだろう?」


「なるほど」


 ギルドカードを見せてそう言うエルさん。

 アージェンタさんたちにも聞こえるだろうけど、もしかしたら知ってるかもだし。


「えっと、エメラルディアさん。今、大丈夫ですか?」


 そう問いかけてから待つことしばし。


『ぁぃ、ぁぃ』


「えっと、ハクっていう植物知ってます?」


『ぁぃ』


 良かった。まずは第一関門を突破。

 で、次に、


「竜の都で栽培してたりしません? それか、自生してたりとか?」


『なぃ、はず。でも、この間、行った島で、見たよ』


「「ええっ!?」」

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