第539話 無人島スタート格差?

「ベルさんー、お二人がお話があるそうですよー」


 ちょっと早めにログアウト。

 魔女の館のライブを見てたヤタ先生が声を掛けてくれ、しばらくしてセスから部室限定ライブへの招待が送られてきた。


『兄上。ベル殿はこれから会議ゆえ、我の方で聞こう』


「りょ。って、お前はいなくていいのか?」


『他ギルドとの調整会議は渉外をしておるベル殿とユキ殿に任せておるのでな』


 同盟関係のギルドと会議なのか。

 まあ、俺の報告でベル部長がフリーズすると困るし、まずはセスにだけ話しておこう。


『で、何かあったのであろう?』


「ああ、この話は他言無用で。あ、いや、お前とベル部長だけにしてくれ」


 そう前置きしてから、アズールさんたちが南の島に侵入しようとした悪魔を捕まえたことを話す。

 尋問して奴らの目的を引き出してくれるそうだけど、それをどこまで話すべきなのかっていう。


『むむ、そのようなことが起きておったのか……』


「南の島は大丈夫ですか?」


『うむ。こちらは全く問題は起きておらん。訪れたプレイヤーには、ケット・シーやノームを連れた者も多く、キジムナーたちと仲良くしておったぞ』


 マジかー。ちょっと見てみたかった。

 でもまあ、妖精たちがいてくれるなら、悪魔が来たらすぐ気づいてくれるか。


「そっちが万全そうなら、何かわかっても、あんまり共有しない方がいいか……」


『そうよの。うまくすれば、もう何匹か悪魔を捕まえられる可能性もあろう』


 そう言ってニヤリと笑うセス。


「じゃあ、目的がわかったら、そっちに共有するよ」


『うむ』


 その話はいったん終わり。

 で、俺もミオンもさっきから気になってるのが、セスの画面に映ってる南の島の様子。


「今いるのって、キジムナーの里の門前町だよな?」


『なかなかの盛況ぶりであろう!』


「すごいですね!」


 ぱっと見ただけで2、30人の姿が見える。

 その中にはプレイヤーだけでなく、キジムナーやケット・シー、ノームの姿も。


「妖精多いなあ」


『初日は妖精を連れておるプレイヤーを優先したのでな。同じ妖精を連れておるなら、キジムナーたちも安心であろう』


 ミオンが降り立ったあたりのコテージでログアウトするのもオッケー。

 ただし、南の島に行けるのは、お昼の12時から翌午前0時に制限してるので、閉まってる時には本土に戻れなくなると了承してもらった上でだ。


「ここだけじゃなくて、古代遺跡、採掘施設の方に行ってる人もいるんだよな?」


『そちらもかなり賑わっておる。事前にライブで魔銀ミスリルが採掘できることも話しておるのでな』


 地下で採掘して、地上階でインゴットにしてっていう感じの流れらしい。

 あと、地下11階には強力なブラックディガプアントが無限湧き(?)することを伝えてあるけど、チャレンジしようって人はいないらしい。今のところだけど。


「上の方の階はどうなんでしょう?」


『そちらは観光ツアー状態よの。所蔵されておった書物は、すべて複写されたものがプレイヤーズギルド「知識の図書館」に保管されておる』


 ……すごい量の本があったと思うけど、それ全部複写したんだ。


「ん? 最上階まで行けるようになってるのか?」


『いや、ベル殿がヒトミさんに命じて、最上階には行けぬようにしておる』


 転移エレベーターは9階まで。

 9階から10階に続く扉はマギアイアンゴーレムが守ってるそうだ。


「まあ、それなら大丈夫か」


『くくく。何か悪さをしようものなら、それが広まって後悔することになろう』


 セスがゆっくりと歩き始め、門前町からアームラの林へと入る。

 ここも採集してる人たちがちらほらと。


「あ、教会はどうなりましたか?」


『うむ。今からそちらへと向かおう』


 林を北へと進み、ぽっかりと開いた参道(?)の入り口に到着。

 以前は雑草が生い茂っていた道は綺麗に整備され、石畳も綺麗なものに張り替えられていた。


「おお……」


「すごく綺麗になってます!」


『うむうむ。ディマリア殿は、例の一件の反省の意味を込めてと言っておったの』


 例の一件ってなんだ?

 俺のそんな疑問が顔に出てたのか、


「スウィーちゃんたちが……」


「ああ、あれか! そんな気にしなくていいのに」


 あれはスウィーが、いや、ガジュが助けたくてやったことだし。

 逆に知らんふりしてたら、ちょっと怒ってたかもしれない。


『そのディマリア殿から、お願いと言うほどでは無いだが……』


「ん?」


『教会に女神像が無いであろう? 兄上が彫った翡翠の女神の木像を置けないものかとな』


「ぁ……」


 あー、地下室にあった『名も無き女神像』は、うちの島に持っていっちゃったからなあ。

 うーん……


「ミオンはどう?」


「私はショウ君が作るなら」


「じゃあ、すぐは無理だけどって答えといて」


 材料さえ用意できれば、自作複製のアーツでさくっと作れるけど、教会に置くんなら一からちゃんと作らないとだよな。

 あれからスキルレベルも上がってるし、もっといい像が作れるはず。……モデルも隣にいるし。


『うむうむ!』


 教会へは行かず、そのままコテージの方へと歩いていくセス。

 すれ違うプレイヤーに手を振ったりしつつ、古代遺跡に続く階段を登る。


「あ、そういや、サバナさんの島も一般公開したんだっけ?」


『そちらも制限つきではあるがの。その前に公表しておった島の方は、完全に解放したそうだ』


「ああ、そっちもあったっけ」


 セスが聞いた話だと、結局、そっちはちょっと希少な鉱石が採掘できるぐらいで、大した島じゃなかったんだとか。

 だいぶ前にドヤ顔で紹介する動画上げてたけど……


「あまり話を聞きませんよね」


『アンシアの手の者が島を隅々まで探したそうだが、本土に無い希少な物は見つからんかったらしい』


「なんか微妙な島だったんだなあ。無人島スタートできるのに……」


 俺のそんな呟きに、セスが呆れたようにため息をひとつ。


「あの、ショウ君……」


「ん?」


『無人島スタートできる島では、サバナ殿の島でも当たりと言われておる。ラムネ殿の島は大当たり。兄上の島は……』


「え? 俺の島は?」


『女神当たりと言われておるな!』


 意味わかんないんだけど……

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