第505話 繋がっていく点

「ワフ」


 地下の大型転送室。その奥にある転移魔法陣が光り、しばらくしてアージェンタさんが現れた。


「ショウ様。お忙しいところ、申し訳ありません」


 すぐに駆け寄ってきて、頭を下げるアージェンタさんだけど、なんだか酷くお疲れの様子。

 俺たちが聞いた噂のことを話すと、詳しい場所が知りたいとのことで、急遽こっちへ来ることになった。

 アージェンタさんが本土の地図を持ってきてくれるとのこと。

 竜の都に残された地図ってレアなのではと思ったんだけど、プレイヤーが作ったやつらしい。

 そして、


「お待たせした」


 今度はエルさんが大きな2ドア冷蔵庫のようなものを背負って現れた。

 白竜姫様に食事を提供するのに、大きな魔導保存庫と交換して欲しいって話をしたら、すぐに用意してくれるって話だったんだけど、今日いきなり持ってくるとは……


「エル。そちらはお願いします」


「はい」


 一応、どこに置くかは決めてあるので、屋敷まで運んでもらったあとは、ミオンに任せてしまおう。


「あと、この木箱の中にルピの木像が入ってます。繊細な部分とかはないですけど……」


「ああ、十分気をつけて輸送するので安心してくれ」


「お願いします」


 そっちは帰りに持って行ってもらうということで、とりあえずは屋敷へ移動。

 中身が空っぽとはいえ、大きな魔導保存箱を軽々背負っているエルさん。

 重さもそうだし、背中の羽が邪魔だったりしないんだろうか……


「ショウ様がその噂を聞いたのはいつ頃でしょうか?」


「今日、ギルドカードで連絡する直前ぐらいです。俺の知り合いっていうか、『白銀の館』のメンバーが探索しようとしてる先らしいんですよね」


「なるほど」


 話の経緯を軽く説明。

 古代遺跡を出て、ウリシュクやケット・シーに挨拶しつつ教会の側を抜ける。


「ブルル」


「リゲル。また、今度な」


 シャルたちが毎日ブラッシングしてるせいか、出会った時よりもいっそう毛艶が良くなった気がする。美味しいものも食べてるからかな。

 そんなリゲルを見て、エルさんが驚いてたようだけど、アージェンタさんが何か言ったら納得したっぽい。


「ただいま」


「ぉ、お帰りなさい。ようこそです」


 エルさんが背負っている魔導保存庫に、ちょっとびっくりしたミオンだけど、俺が説明して設置予定の場所へと案内をお願いする。

 俺とアージェンタさんは、そのドラゴンの話をするために応接室へと。


「こちらが地図になります。竜の都についての情報はありませんが、それはご了承ください」


「了解です」


 ちゃんとした地図だけど、さすがに白竜山脈の向こう側、竜の都は載ってない。

 本土プレイヤーが作ったやつだし、それはしょうがないか。俺だけ知ってるのもなんか気まずいし。


「ショウ様が聞いた、ドラゴンを見かけた場所はどのあたりでしょうか?」


「俺も噂を聞いた人から聞いたんで、合ってるかどうか微妙なんですけど……」


 ベル部長が見つけた古代遺跡『魔術士の塔』がこれで、その南東にあるのがエルフの集落近くにあった古代遺跡だよな。

 で、マリー姉たちはそこからさらに南へ行こうとしてるって話で……この渓谷の奥のはず。


「この辺りですかね。多分、この古代遺跡の塔の辺りにいる人が見かけたんだと思いますけど」


 その辺、もう少しベル部長に詳しく聞いて置けば良かった。


「なるほど」


 そう答えて考え込むアージェンタさん。

 そのドラゴンがエメラルディアさんで間違いなさそう。

 それにしても、アージェンタさんが急に来るってことは、相当な大事なのかな?


「えーっと、その翠竜エメラルディアさんって、危険だったりします?」


「ある意味、危険かもしれません。厄災が起きた時、彼女は妖精や幻獣を守るためならと力を貸してくれました。それも白竜姫様の説得があったからです」


「それって人間には……」


「いえ、敵対というか、妖精や幻獣に危害を加えるようなことがなければ問題ありません」


 それを聞いてホッとする。

 マリー姉もシーズンさんもそんなことはしないだろうし。

 それにしても、


「竜の都には住んでないんですね」


「はい。彼女はなんと言いますか、他者との会話がそもそも苦手な方でして……」


 つーっと目を逸らすアージェンタさん。

 昔から引きこもりがちで、妖精や幻獣たちとのんびり暮らすのが好きっていう……なんかちょっと耳が痛い話。


「だとすると、飛んでるところを見掛けられたっていうのが、いまいち謎なんですけど」


「彼女は厄災の対処が終わったあと、白竜姫様と同じく眠りについたのです。ただ、その場所がどこかを告げずに去って行ってしまったため」


 アージェンタさんたちは、ぱったりと眠ってしまった白竜姫様の方にかかりきりで、寝るとだけ告げて去っていった翠竜エメラルディアさんまで目が届いてなかったそうだ。


「じゃ、迎えに行くんですか?」


「いえ。バーミリオンの話では、魔物や悪魔が活発化しており、私もアズールも手が離せない状態です。エメラルディアを呼び寄せても、その手の仕事を任せられませんし……」


 また、つーっと目を逸らすアージェンタさん。


「ですので、彼女を刺激しないように。そして、可能なら一度、竜の都へと顔出すように伝えたいのですが」


 うーん、俺からセスとベル部長に伝えてもいいんだけど、


「もう少し詳しい話を『白銀の館』の人から聞けると思うんで、アズールさんから伝えてもらうのはどうです?」


「なるほど」


 うちのギルドカードを取り出すアージェンタさん。今ここで伝えておいた方が早いもんな。

 俺も交えてざっくりと内容を伝えると、


『オッケー。じゃあ、ショウ君の知り合いから周知してもらうでいい?』


「ええ、それがいいと思います」


『アージェンタ。別件ですまんが、悪魔の一部が魔王国側に向かっているようだ』


 とバーミリオンさんが割り込んで報告が入る。

 その報告になんともいえない表情になるアージェンタさんだったが、


『放置しかないよ。僕たちからあっちに何か言っても、それを信じられる証拠がないんだもん』


「そうですね。二人は引き続き警戒を」


『わかった』『りょーかい』


 大変だなあと思うけど、俺としては白竜姫様がいつ来るんだろうって方が気になるんだよな……

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