第498話 夏の終わりの白い花

「ラ〜ラ〜ラ〜ラ〜〜♪」


 ミオンの歌声が響き終わり、俺の演奏も終わったところで、


<はいー。ライブは終了しましたよー>


 とヤタ先生の声がかかった。

 選ばれた曲は<夏の終わりの白い花>っていう、ゆったりとした、でも、ちょっと物悲しい感じの曲。

 自動演奏なのでミスの心配はなかったけど、MPはまあまあ持っていかれたかな?


「〜〜〜♪」「「「〜〜〜♪」」」


 演奏が始まってから聴きに来ていたスウィーとフェアリーズたち、次は歌いたいって感じかな?


「ミオン、こっち来るよね?」


『は、はぃ。その前に着替えてから』


「りょ。慌てなくていいよ」


 翡翠の女神の衣装、結構気を使うものなのかな?

 まあ、ずっと着てたら肩が凝る(?)のかも。


<そういえばー、南の島の方は大丈夫ですかー?>


「あ、はい。今のところはベル部長と白銀の館の人たちに任せてますし」


 明日にでもちょっと見に行ってみないとなとは思ってるけど、ベル部長たち以外の人と顔を合わせるのもどうかなと思うので、幸蓉の神樹を出たところでガジュと話し合いするぐらいで。


<スタジオを閉じますのでー、私はいったん離脱しますねー>


「あ、はい」


 俺のIRO配信は変わらず『ミオン限定』にしてあるけど、ミオンのIRO配信を電脳部グループにして、ヤタ先生はそっちから見ることにするっぽい。

 終わったらアルバムの収録スケジュールについて、ヤタ先生に説明することになってたので、もう少しだけ付き合ってもらわないと。


「お待たせしました」


「お疲れさま」


 スウィーがさっそくミオンの肩へと。

 フェアリーズが歌いたがってることを伝えてピアノを譲る。


「俺は片付け終わらせてくるよ」


「ぁ、私も」


「大丈夫、大丈夫。ミオンはその間に、ヤタ先生に収録スケジュールのことを話しておいて」


 夏休みの宿題は終わってるし、特に何か言われることもないだろうけど、ヤタ先生にはちゃんと説明しておかないとだよな。


「リュ」「ゥゥ」


「うわ、片付け終わらせてくれたのか。ありがとう」


 パーンやアトたちが洗い物と片付けを終わらせてくれて、食器は全てキッチンの食器棚へと入れてくれたそうだ。で、


「リュ?」


「うん? 大丈夫だと思うよ。ちょっと待ってね」


 リゲルに乗ってみたい子がいて、俺の許可が欲しいらしい。

 俺の許可は全然いいんだけど、リゲルに聞かないとだよな。


「リゲル〜」


 裏庭の奥で草を食んでいたリゲルが、すぐに気づいてこちらへと走ってくる。


「ブル〜」


「よしよし。えっと、パーンたちを乗せてもらっていい?」


「ブルルン」


 オッケーをもらったので……3人ぐらい乗れるよな。

 パーンが希望者を並ばせてくれたので、って、ギリー・ドゥーたちも並んでるな。前から順番にってことで。


「リュ〜!」


「暴れちゃダメだよ」


 テンションが上がる気持ちはわかる。俺もそうだったし。

 で、3人乗せたところで手綱を持って、ゆっくりと裏庭を一周コース。ルピたちも一緒にのんびりと。

 ヤタ先生への報告が終わったのか、ミオンのピアノとスウィーたちの歌声が聞こえてくる。

 こうしてると、もう島の北側は無理に探索しなくてもいいんじゃとか思うよなあ。

 あ、ミオンに冷やしシチューを用意しないと……


 ………

 ……

 …


『ベルさんとセスちゃんがバーチャル部室に来てますがー、ミオンさんの配信は見せても大丈夫ですかー』


「あ、はい。大丈夫です」


 隣を見て、ミオンが頷いたので問題なし。

 今さら隠すようなことは、もうない……はず。


『兄上。南の島の件はどうなっておる?』


「え?」


『プレイヤーの行動範囲の件なのだけど』


「あ、ガジュたちと話をしてきて、キジムナーの集落には入らないようにお願いします。交流したい子は、集落の外でってことになりました」


 せっかくガジュたちに聞いてきた話を伝え忘れてた……


『ほうほう。交流をしたいと思ってくれているキジムナーもおると』


「うん。白銀の館の人たちとは仲良くしたいって言ってたし。あ、明日またちょっと行ってみるつもりですけど、いたりします?」


『いえ、明日はライブもあるし、みんなでいったんアミエラ領へ戻るつもりなの。レオナさんも久しぶりにログインするって連絡があったし』


 なるほど。

 レオナ様が戻るってことは、ライブも同時配信でドワーフのダンジョンにでも潜る感じかな? あれ? そういえば……


「えっと、マリー姉はどうしてます?」


『姉上はシーズン殿を誘って、また公国の南へと向かったぞ』


「そうなんだ……」


 レオナ様とのPvP再戦とか飛びつきそうな気がしたんだけど、まあ、内緒で何かしてるみたいだから、そっちの優先なのかな。


『それともう一つ確認しておきたいことがあるのだけど、ショウ君たちが戦ったっていうコボルトはキジムナーの集落の南側から来たのよね?』


「です。ガジュの話だと、月一ぐらいで来てたって話ですね」


『それは我らで排除して問題ないのか?』


「あー、うん。いいと思いますけど、確認しておきます」


 ダメってことはないだろうけど、ガジュたちが自分の手でコボルトを倒したいって気持ちもあるかも?

 とはいえ、あんまり危ないことはさせたくないし、その前に武器を作って配った方がいいのか? いや、調理道具とか食器とかが先だった……


『うむ。今考えておるのは、キジムナーの集落の前に広場があろう。そこに交流できる場を用意する方向を考えておるのだが、兄上はどう思う?』


「ちょっとした門前町みたいな?」


『そうね。いずれは島の南側の探索の拠点にと考えてるの』


 あー、それならキジムナーたちも交流しやすくなるし、そこ以外から侵入するようなプレイヤーには……報いを受けてもらうでいいか。

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