火曜日

第480話 伊勢家のお墓参り

 カーテンの隙間から漏れる光がちょうど顔に当たって目を覚まし……

 

「っ……」


 隣の布団にミオンが寝ているのを見て、びっくりして声を出しそうになる。

 IROならいつものことだし慣れたんだけど、リアルでもはさすがに慣れない。

 俺だけ居間で寝るつもりだったのに、ばあちゃんがしっかり4人分の布団を敷いちゃってっていう……


「うみゅぅ……」


 向かいには美姫が猫のように丸まって寝てるし、斜向かいでは真白姉が豪快な寝息を立てて寝ている。というか、真白姉の掛け布団どこ行った。


「ぁ」


「あー、おはよう。起こしちゃった?」


「ぃぇ」


 時間は……午前7時前か。昨日は寝るのも早かったし、久しぶりにたっぷり睡眠時間を取れた気がする。

 あ、ばあちゃんが朝ごはんの支度を始めてるな。


「俺、起きて、ばあちゃん手伝ってくるよ。ミオンは真白姉と美姫をお願い」


「は、はぃ」


 さくっと着替え……は廊下でやろう。

 危ない危ない。ミオンの目の前で着替えるところだった……


 ………

 ……

 …


 朝食も食べて、午前中はじいちゃんと田んぼの様子を見に行くことに。

 ミオンも一緒に行きたいというので、特に断る理由もないし、まあ、基本的にカゲマルとの散歩だし。


「今年も問題なさそう?」


「そうだな」


 舗装された農道を歩きつつ、田んぼの様子を眺める。

 栽培自体は自律型の稲作ロボットで行われていて、育成もほぼお任せという状態。

 じいちゃんが農家としてやってるのは、ロボットに見落としがないかどうかという人の目での監視ぐらい。


「ほとんど任せっぱなし?」


「だな。米や主要な野菜の栽培は、耕作ロボットに任せた方が楽でいい」


 じいちゃんがそう言って笑う。

 ばあちゃんが趣味でやってる菊作りとか、家庭菜園とかだと割に合わないんだろうけど、たくさん作って売り物にするならって感じらしい。

 興味があるのか、隣のミオンがなるほどって感じで頷いている。


 そのまま道なりに進んでいくと、俺もよく知ってる広場へと出た。

 小学生ぐらいの時は、真白姉、美姫、ナットと、角にあるバスケットゴールで遊んだよなあ。


「ワフ」


「ん。いいの?」


「ああ、構わんよ」


 ここもうちの敷地だけど一応確認。

 じいちゃんから許可が出たので、カゲマルのリードを外す。

 でも、しっかりと待てをしてるあたり、じいちゃんがちゃんと躾けてるんだろう。


「よし!」


「ワフッ!」


 ダッシュで広場の端まで行って、Uターンして戻ってきた。

 今度はじいちゃんから渡されたボールを投げると、しっかりとそれを取ってきて、俺の前に置いておすわり。


「よしよし」


 しっかり撫でて、褒めてからおやつを渡す。

 うーん……


「ルピちゃん、元気にしてるでしょうか?」


「俺もそれが気になってる……」


 賢い子だし、レダとロイもついてるし、大丈夫だろうとは思うんだけど。

 スウィーが暴走してないかが心配……


 ………

 ……

 …


 お昼はそうめん。

 暑い夏には定番って感じなんだけど、うちのそうめんは具だくさん。ハム、おくら、プチトマト、錦糸卵に椎茸の含め煮。

 みんなでたくさん食べて一息ついたところで、


「じゃ、墓参りに行こうかね」


「そうだな。翔太、澪ちゃんのことは任せるぞ」


「あ、うん、もちろん」


 そのやりとりを不思議そうに見つめるミオン。

 ちょっと大変だろうけど、1人で留守番って言っても納得してくれないよな……


「よーし、行くかあ!」


「う、うむ……」


 真白姉はいいけど、美姫はいまいち乗り気じゃない様子。

 これもいつものことだけど、美姫は体力というか持久力に自信がないからなあ。


「ほら、行くよ」


「じいちゃん。カゲマルは?」


「連れていくよ」


「わかった。ミオン、行こう」


「は、はぃ。ぇ、えっと……」


 俺たちは玄関へと向かうけど、じいちゃんたちは裏口へと。

 戸惑うミオンを連れて外へと出ると、カゲマルがお座りして待ち構えている。


「ワフ〜」


「よしよし。一緒に行こうな」


 しっかり撫でてから、ケーブルをリードに付け替える。


「ぁ、あの、ショウ君?」


「えーっと、うちの、伊勢家の先祖代々のお墓って山の中腹にあるんだよ」


「ぇ?」


 ………

 ……

 …


 裏山を登り、途中でいったん沢に降りてから、さらにまた登る。

 山道を登り降りすること小一時間……


「ミオン、大丈夫?」


「は、はぃ」


 さすがに少し辛そうなミオン。

 美姫もまあまあ辛そうだけど、目的地はもうすぐそこだ。


「あのカーブを曲がった先だから」


「はぃ」


 雨上がりだともっと大変だろうけど、ここ数日は晴天が続いてたようで良かった。

 後ろ手にミオンと手を繋いで残り10m弱を登りきると、教室ほどの広さの台地へと出た。


「わぁ……」


「ここが伊勢家代々のお墓かな。いつから続いてるのか知らないけど」


「明治という……、時代の……、終わり頃らしいぞ……」


 美姫がそう言って、崖沿いに置いてある大きな石に腰掛ける。父さんに聞いたことがあるらしい。


「すごく古いです。それからずっとなんですよね」


「まあ、そうなるよな。ミオンも美姫の隣に座ったら?」


「ぇ、えっと……」


 じいちゃんやばあちゃん、真白姉がてきぱきと花を供えたりしてるのにってとこかな?

 それをいうと、俺も何もしてないなって話だけど……


「無理する必要はないよ。2人は座っときな」


 ばあちゃんが水筒を渡してくれたので、ミオンも座らせて、2人に冷たい麦茶を渡す。

 山の中を歩いてきたので、そんなに暑くはないんだけど、それでも熱中症は怖い。


「よし、準備できたぞ」


 お線香のほのかな香りが漂い、


「うん。ミオン、美姫」


「はぃ」


「うむ」


 みんな揃ったところで、手を合わせる。

 毎年のことだけど、ミオンに来てもらえたのはやっぱり嬉しいな。


 ◇◇◇


「アオ〜〜〜ン〜〜〜」


「「「アオ〜〜〜ン〜〜〜」」」


 ショウとミオンの島の展望台。

 ルピの遠吠えに続いて、レダとロイ、ドラブウルフたちの遠吠えがこだまします。

 スウィーやフェアリーズ、シャルとケット・シーたちも黙祷……


「ワフン」


「ニャ」


 島の主人であるショウがいない間、久しぶりにレダとロイの親兄弟に会いにきたルピたち。

 スウィーやフェアリーズは空砂糖の残りが気になるし、シャルたちはシルビナ(またたび)の実が目的だったり?


「〜〜〜♪」


「ニャ。ニャニャ?」


「ワフ」


 沢の方へ向かい、ブルーガリスとシルビナの採集に向かおうとスウィー。

 その後はトゥルーたちのところに行って、シルビナ酒を作るということで話がまとまったのでした。

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