第461話 大事なのは美味しいこと
「ショウ君。あの貝は……」
「あ! しまった!」
トキワガイをほったらかしだった。
定番なのは壷焼きだし、殻の中に身を戻して壷焼きもどき(?)でいいか。
アズールさんたちが来るまでの間に料理してしまおう。数は……とりあえず6個ぐらいでいいかな。
「ミオンはサザエは食べたことある?」
「なぃです……」
「あー、じゃあ、まあ気が向いたらで」
ちょっと怪訝な表情というか「それを食べるんですか?」感が……
カキとかホタテとかならメジャーだから食べたことありそうだけど、サザエはないよなあ。
じいちゃんに教わった通り、フライパンにトキワガイを並べ、水を1cmほど張ってから蓋をして蒸し焼きに。
「そろそろ良さそうかな?」
良い感じにぐつぐつしてきたところで蓋を開けて、貝口にクルーぺソース(魚醤)を垂らしてしばし待つ。生臭さが残らないように、しっかり火を通したところで、
「多分、これぐらいでいいと思うけど……ちょっと先に味見させてね」
「キュ」
どんな味になってるのか若干不安が残る。
ミオンやトゥルーたち見守る中、トキワガイの壷焼きをパクッと。
「うわっ、すっごい美味しい……」
ぷりっぷりの歯応え、うま味がぎゅっと濃縮されていて、噛むごとにじゅわっと滲み出てくる。
「キュキュ〜!」
「はいはい。じゃ、食べたい人だけでいいからね」
トゥルーとセルキーたちは食べたくてしょうがない感じだけど、シャルは結構ですという表情。あ、ルピたちもか。
じゃ、残りはトゥルーたちで分けて貰えばちょうどいいかなと思ってたら……
「あー! また、美味しそうなもの食べてる!」
うん、アズールさんは何食べても大丈夫そうだよな。多少の毒でも味とか言い出しそうだし……
走ってきたアズールさんの後ろには、当然というかベル部長とセスが。
「それってサザエよね?」
「あー、トキワガイって名前ですけど、もろにサザエっすね。というか、ベル部長は知ってるんですね」
「ええ、食べたこともあるわよ。美味しいわよねえ」
と目がご所望の模様。
結局、トキワガイの壷焼きを食べたのは、俺とトゥルーたち、そして、アズールさんとベル部長。
ミオンはやっぱりダメそうとのことでパス。セスも貝は好きじゃないからなあ。代わりにランスクィッドの中華風炒めで満足してもらった。
で、それはいいとして、
「えっと、教会があって、名も無き女神像があったことって」
「うん、聞いてるよー。僕としては、ショウ君の島へ持ち帰ってくれた方がいいかな。竜族としても、今のところは秘密にしてもらっておいたほうが助かるし」
死霊都市にいた悪魔の件もあるし、魔王国の動きも気になるしとのこと。
名も無き女神像はある意味『切り札』になりえるので、手の届かない俺の島の方に運んで、いざという時にということになった。
「僕が運ぶけど、ちょっとこれ食べ終わるまで待ってね。本当ならワインと一緒にじっくり味わいたいところなんだけどなー」
すいません。持ってきてないです……
………
……
…
地下10階、転移魔法陣が置いてある部屋。
名も無き女神像だったり、アームラの若木だったりを運んでもらって、気がつけば午後11時前。今日はこのまま島へ戻ってログアウトかな。
「ショウ君。転移魔法陣の固定を外しておいてもらった方が」
「あ、そうだった!」
危ない危ない。前も忘れてたんだった。
ベル部長にはもう説明済みだけど、アズールさんには伝えられてなかったし、今ここで説明して外しておいてもらおう。
「なるほどなるほど。じゃ、ショウ君の島に持って帰る時は、竜篭に乗せていってあげるよ。一度は乗ってみたいでしょ?」
「あ、は、はい……」
俺が飛行機が苦手なのを知ってるベル部長やセスがニヤニヤしていて……うん、頑張ろう。
「ヒトミさん。この転移魔法陣の固定を外してもらえるかしら?」
[はい。固定を解除します。……完了しました]
「どもっす。じゃ、俺たちはこのまま」
「あ、待って待って! ショウ君、明日も調査はするんだよね?」
「ええ、明日も来ます」
ただ、合宿は明日まで。明後日金曜は帰路に着く。
土日も来るとは思うけど、月曜からじいちゃん家に行くし、そのあとはミオンのアルバム収録があるしで、夏休みが終わるころにはこの島からは撤収予定。
「明日、白竜姫様が来てもいいよね?」
「あー、いいです。エルさんも来るんですよね?」
「それはもちろん」
そういうことなら全然問題なしかな? スウィーたちも喜びそうだし。
アズールさんが連れてくるわけじゃなくて、うちの島の大型転送室で合流して欲しいとのこと。
で、それはいいとして、
「えっと……」
「私たちもいいんでしょうか?」
「席を外した方が良いのであれば……」
「あ、当然紹介するからね。礼儀がどうこうとかは気にしなくていいよ。2人は僕にもきっちりしすぎてるくらいだからねー」
ベル部長もセスもそう言われるとどうしようもないよな。
でも、今後のことを考えると、白竜姫様とは面識があった方がいいと思う。できれば、覚醒モードで会って欲しいんだけどなあ。
***
「お疲れっす」
「お疲れ様」
「うむうむ」
「今日はどんな感じでしたかー?」
とヤタ先生から。飲み会はもう終わってしまったのか、ローテーブルの上はすっかり片付いている。
「ライブは特に問題なくですね。ピアノはほぼ修復が終わってるんですが、まだまだ見れてない人もいるだろうということで……問題ないわよね?」
「大丈夫っす。期限はまだまだありますし、こっちのライブ再開の時にあればいいかなって」
ミオンとも相談して、合宿とじいちゃんちへの帰省から戻ってきたら、ライブを再開しようと思っている。
以前の週2回ペースに戻すかは、ミオンのアルバムの収録の忙しさ次第かな?
「というか、ピアノを見に来る人ってそんなに多いんですか?」
「ええ、そうよ。とはいえ、それ以外にもいろいろと催し物があったりするから」
「週一ペースで交流会も続いておるのでな」
とのこと。
特にプレイヤーが作った料理、酒、甘味なんかは人気らしく、取り引きもかなり増えてきているらしい。
アズールさんたちで特に欲しいものがあったら『ティル・ナ・ノーグ』で依頼出してもらっていいかも?
ライブが終わった後は南の島での話になるので、俺たちの話にチェンジ。
俺がトゥルーたちとランスクィッドやトキワガイを獲ったり、ミオンがスウィーたちとアームラの若木を掘りに行ったりなんだけど……
「なるほどー。やっぱり『名も無き女神像』はー、かなり先に出す予定だった気がしますねー」
その意見にベル部長も美姫も頷いている。
俺としては、たまたま見つけただけなんだけどなあ……
「当面はうちの島で預かるってことになりました」
「いいと思いますよー」
そっちはそれで一段落、いや、先送りかな。
「兄上。明日は白竜姫様が来るとのことだが、我々で何か用意しておくべきことはあるのか?」
「そうね。本土のスイーツを持って行ったりした方がいいのかしら?」
なんか相談し始めてるけど、とりあえず美味しいものなら、なんでもいいんじゃないかな……
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