第454話 美味しいものはみんなで

「追っては来てない、かな?」


「みたいですね」


 階段の上、地下10階まで無事戻って来れた。

 あのブラックディガプアント、明るいところまでは追いかけてこない? いや、そもそも、あのブレスを食らったら無理か。

 それにしても、


「セス。あのアリ、倒せるか?」


「数体であればなんとかなろうが、時間はかかりそうだったの。次に来ることがあるなら、剣ではなく戦棍メイスを持ってくるべきであろうな」


 と肩をすくめる。


「レオナさんがいれば、関節部分を切ってくれるでしょうけど、それでも数が多いとなると、スタミナが持たなそうね」


「あー、っていうか、あのアリって本土にはいるんです?」


「ディガプアントはアミエラ領のドワーフのダンジョンで戦ったことがあるわ。公国の南にあるダンジョンにもいると聞いたけど……」


「けど?」


「我らが戦ったことがあるのは、せいぜい子犬サイズよの」


 セスは隙を作らないようにしていたため、鑑定できてたのは俺だけっぽいな。

 なので、


「俺の鑑定結果だと、そのディガプアントの変異種って出てました。ブラックディガプアントっていう名前で、なんらかの原因で巨大化&凶暴化したって」


「ふむふむ。そのなんらかって、やっぱり地下にある隕石とかかな?」


 とアズールさん。


「なるほどの」


「隕石の影響でミュータント化するのはお約束よね」


 変異種というとレッドアーマーベアなんだけど、俺はアレはうまくハメて倒したようなもんだし、今回はちょっと厳しいかな。

 もちろん、アズールさんに頼ればなんとかなるんだろうけど、それはちょっと……


「ショウ君。腕はもう大丈夫ですか?」


「あ、うん、全然平気。治癒ありがとう」


 俺たちの会話が落ち着くのを待ってくれていたのか、ミオンが心配してくれる。

 あいつらが吐いた酸(蟻酸?)は、ロイにもかかったし、ルピもかかってたかもしれないけど、ミオンがちゃんと治癒してくれたらしい。

 で、


「クゥ〜ン」


「クル〜」「ニャ〜」「リュ〜」


 助けられたルピはちょっと凹んでて、それをラズ、シャル、パーンが慰めている。

 レダはロイをよく守ったと誉めてるのかな? 仲が良さそうで何より。


「ルピ。次に出会ったらリベンジしような」


「ワフ!」


 ルピをしっかり撫でる。

 今回は初見の相手だったし、変異種だったし、とっさに対応しづらい部分も多かったから仕方ない。


「今日はこれぐらいにするとして、明日は1日休みを挟んで、明後日ですかね?」


「そうね。それよりも地上階を先に探索で……いいでしょうか?」


「いいんじゃないかな。それと、遺跡の機能の断絶なんだけど……」


 アズールさん『あくまで推測だけど』と前置いて話してくれたのは、さっきのアリの変異種のせいかもという話。

 元々のディガプアントでも、結構硬い岩でも砕いて巣穴を作るそうで、それがさらに変異種になって、遺跡の壁を破って住み着いてしまってるのではという。

 どっちにしても、今すぐどうこうできる相手でもなさそうだし、いずれそのうちってことで……


***


「あ、こんばんは」


「おや、ゲームは終わりかい?」


「ええ」


 ミオンと2人、リビングへと戻ってくると、ヤタ先生と女将さんがさし飲み中。

 時間は昨日と同じぐらいだけど……


「優希さんがー、明日は雨だろうとー」


「そこそこ降るんじゃないかねえ。まあ、うちの旦那が車を出すから、おみやげ探しに行くといいよ」


 そんな話をしていると、ベル部長とセスもやってきて、女将さんが腰を上げる。


「あ、俺たちのことは気にせず続けてもらって」


「あはは、終わるつもりはないよ。ちょっと夜食を作るから待ってな。鈴音ちゃん、手伝いな」


「はーい」


 夜食……

 そういえば小腹が空いてる気がするし、嬉しいんだけど、ベル部長が手伝うって珍しいな。


「ところで、兄上。明日は我らはライブがあるが、そちらはどうするのだ?」


「俺らは……特には決めてないな。うーん、南の島の遺跡以外の部分を見に行こうかなってぐらいか」


 スウィーたち、特にパーンは知らない野菜とか見つけたいだろうし。

 あんまり遠くまでは行けないだろうけど、とりあえず水上コテージのあたりに見えてた、ココナッツは採集したい。


「ぁ、あの、ショウ君。トゥルー君たちが一緒はダメですか?」


「ああ! すごくいいと思う。明日誘ってみようか」


 こっちの海、少なくとも湾内は大丈夫そうだし、トゥルーたちを連れてきたら喜んでくれそう。


「ふーむ、我も来たいところではあるが……」


 セスもベル部長も、あんまり本土にいないと、それはそれで不思議に思われるという問題が。

 本拠地が王国のアミエラ領だし、死霊都市に居続けるのも変だしなあ。


「転移魔法陣が南の島に繋がったことはー、いつ発表するつもりなんでしょー?」


 若干、呂律が怪しいヤタ先生から質問が。

 俺も同じことを考えていたので、美姫の方を見ると、


「正式に公表するのは、夏休み明けあたりよの。もちろん、兄上の許可を得るつもりなので、そこは心配せずとも良い」


 とのこと。

 ミオンはどう思ってるかなと見ると、ニコッと返されたので、俺に全部任せるということだろう。


「じゃ、それでいいか。まあ、俺たちは……あ!」


「どうした?」


「いや、地下10階の転移魔法陣の固定を外してもらうの忘れてた……」


 ベル部長が管理者になってくれたから、あの転移魔法陣の固定も解除できるはず。

 今回のざっくりとした調査が終わったら、外してアズールさんに島まで運んでもらおう。


「できたわよ」


「おかわりもあるからね。漬物も好きなだけ食べとくれ」


「美味しそうですねー」


 泡盛の瓶とグラスが片づけられ、みんなが食べやすいようにテーブルに置かれたのは、食欲をそそる香りの焼きおにぎり。

 そして、らっきょうの漬物かな。かつお節が添えてあって、こっちもすごく美味しそう……


「それは、島らっきょうの浅漬けだよ。ちょっと辛いから、小さいのから食べてみるといいよ」


 とのことなので、小さめのやつにかつお節を添え、醤油を少し垂らして、


「ん、美味しい」


 俺を見ていたミオンと美姫が、その反応を見てから口に運ぶ。

 ミオンは割と辛いの平気っぽいけど、美姫には……


「っ!」


「あはは! 辛いのに当たっちゃったかね。ほら、お茶を飲みな」


 いや、俺が食べたやつでもその反応だと思います。

 涙目のジト目をよこす美姫から目を逸らすと、ヤタ先生がいつの間にかグラスを片手に大きいのをパクッと一口。


「んー、やっぱりこれですよねー」


 ……

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