未知への翼

日曜日

第440話 順風満帆

「いいんですか、これ……」


 テーブルに並ぶのはお寿司。

 量もかなりあるんだけど、ネタもおそらく最上級のもの……


「ええ、好きなだけ食べてちょうだい。余ったら持ち帰ってね」


 そうニッコリと答える雫さん。

 そして待ちきれないといった美姫が、


「兄上!」


「あ、ああ……」


 ミオンを見るとうんうんと頷いているし、ここまでされて食べない方が失礼だよな。

 ということで、


「いただきます」


「いただきます!」


「ぃただきます」


 いつものように、いや、美姫も一緒にミオンの家でお昼なんだけど、今日は俺が作るんじゃなくて、ごちそうしてくれるということに。

 普通にデリバリーを頼んでくれてるそうで、ピザとかかなと思ってたんだけど……うん。ミオン、普通にお嬢様だったよな。


 ………

 ……

 …


「これぐらい、ですか?」


「うん、いい感じ」


「できたぞ、兄上!」


 今日は美姫も交えてお菓子作り。奈緒ちゃん(ナットの妹)の家庭教師も、お盆明けまではおやすみということで参加。

 ちょっと前にゲーム内でも作ったアップルパイを、明日からの合宿のおやつにもなりそうなので多めに作る。

 ミオンにはスライスしたリンゴを砂糖で煮てもらい、美姫にはカスタード作りを手伝ってもらった。

 パイ生地は市販のを使うからいいとして、あとは……オーブンを温めないと。


「よし。じゃ、パイシートの上にカスタードとリンゴを並べていこうか」


「はぃ」


「心得た!」


 シートに小麦粉をふるってから、カスタードとリンゴを乗せてもらう。

 その上に、切り込みを入れたシートを被せたあとは、


「こうです?」


「ふむ」


「うん、いい感じ」


 フォークで端っこを突いて閉じ、卵黄を表面に塗ってもらって準備完了。

 材料はたくさんあるので、どんどん焼いていこう。


 ………

 ……

 …


「美味しいです」


「うむうむ」


 最初に焼き上がった物をさっそく味見なんだけど、椿さんがお高い紅茶も淹れてくれて、本格的なティータイムかな?


「うーん、この紅茶もすごい高いんじゃ……」


「アッサムとセイロンのブレンドですが、そんなにお値段が高いものでもないですよ」


 その「そんなに」の基準が高そうで怖い……

 でも、甘めに作ったアップルパイには、ちょっと濃い目の紅茶の方がいいんだよな。


「そういえば、明日って椿さんが学校から空港まで送ってくれるんですよね?」


「はい。熊野先生からお願いされております」


「ん」


「明日は駅から学校までも、お送りしますので」


「助かります」


 合宿に持っていく荷物は朝のうちにまとめたけど、それなりの量になったからなあ。

 学校まで送ってくれるのも助かるし、集合後にまた乗るんだから、荷物も乗せたままでいいのもありがたい。


「ぁ」


「っと、追加分が焼き上がったかな」


 オーブンから音楽が流れてきたので、取り出して冷まさないと。

 雫さんの分を取り置いて、残りは全部おやつとして持っていこう。

 ゴルドお姉様、ベル部長の叔父さんらしいけど、アップルパイが嫌いな人っていないよね?


 ………

 ……

 …


「セスちゃん、見えますか?」


『うむ! 実に快適よの!』


 今日は美姫もいて、どうしたものかなと思ったんだけど、ミオンの部屋にPCパーソナルコアが1台増えていた。

 もともと、ミオンの私用に1台、動画編集用に1台あったのに、さらにバーチャルスタジオ専用に1台追加したらしい。例によって親会社で買ったものを、子会社がレンタルするっていう形で。

 美姫はそのバーチャルスタジオのPCでミオンの限定配信を視聴中……


「今日はそんな何かあるわけじゃないんだけどな」


『かまわぬぞ。むしろ、いつも通りのことで「白銀の館」と取り引きできる物がないかを確認したいところよの』


「はいはい」


 そういうことなら気にせずかな。

 表に出ると、昨日の雨はすっかり上がって快晴。

 で、ミオンとルピはいるんだけど、スウィーやシャル、ラズにレダ、ロイはどこへ行ったんだろう?


「ルピ。レダとロイ呼んでくれる?」


「ウオォ〜ン……」


 ルピの遠吠えが響くと……先にセルキーたちもやってきた。


「キュ〜♪」


「うん、おはよう」


 挨拶に来たトゥルーを撫でていると、スウィーやシャルたちがレダとロイを従えてやってきた。

 いつものようにカムラスやルモネラの実を採りに行ってたっぽい。


「〜〜〜♪」


「ニャフ」


「おやつ? いいけど、何作ろうかな?」


 いつものコンポートや昨日作ったゼリーでもいいんだけど……


『兄上が昔作ってくれた、フルーツポンチはどうだ?』


「あー、作るの簡単だし、それにするか」


 シロップを作るための空砂糖はあるよな。あ、ちょっとだけお酒を入れるか。

 カムラスとルモネラの二つはいいとして、残ってるレッドマルスも使い切っちゃおう。

 あとは炭酸水があればいいんだけど……どこかに湧いてたりしないのかな。


「ぁ、あの……」


「うん。作り方教えるから、ミオンも手伝って」


「はぃ!」


 セルキーの女の子たちもソワソワしてるし、みんな作って食べてでちょうどいいぐらいかな?


 ………

 ……

 …


「そういえば、死霊都市の方ってどんな感じ? 俺が出した依頼で騒ぎになってたり?」


『今ごろ気にかけるのもどうかと思うのだが?』


「いや、すまん。アズールさんからも連絡ないし、大丈夫なのかなって……」


 その答えにミオンもちょっと苦笑い。

 俺のライブが始まった頃、死霊都市でこっそりオープンしていた『ティル・ナ・ノーグ』の出張所だけど、ライブで公表したことで現地にいたプレイヤーが殺到したらしい。

 けど、依頼受注の抽選には、竜貨を預けることが必要。加えて、どれか1件のみという制限も入れてくれたおかげで、日付が変わる頃には落ち着いたとのこと。


「ってか、いつまで募集受け付けるんだ?」


『兄上……。今日の午後8時まで受け付けるそうだぞ』


 美姫に呆れられてしまった。

 いや、うん、俺がその辺全然気づいてなかったのがアホなんだけど、アズールさんとゲイラさんが全部よろしくやってくれたそうで。


「抽選はいつでしょう?」


『今日の夜に行われる予定よの。その様子は、今日のベル殿のライブでピアノのお披露目と共に予定されておる』


「おお、すげえ……」


 昨日のライブが始まる前、ミオンから連絡が行ったので、ベル部長とセスが打ち合わせに行ってくれたんだとか。

 ホント、助かります……

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