第439話 大事なことは二人のんびり

「えっと、そろそろ時間だよね?」


『はい。その前に次回についての告知を』


 あ、そうだった。


「えっと、俺の都合で申し訳ないんですけど、祖父母のところに帰省したりとかバタバタするんで……」


『しばらくおやすみします』


【フェムラ】「マ!?」

【クサコロ】「いつ再開とかも未定?」

【コックリ】「えー……( ´Д`)」

【ヒエン】「お盆だし帰省かー」

 etcetc...


 その言葉に落胆のコメントが溢れる。

 例の面倒くさい問題のこともあるけど、合宿だったり帰省だったりの間のライブに気をつかう必要も無くなっていいかなと。

 作ってアップしてない短編もいくつかあるので、それを出しつつ、ライブ再開日は追ってお伝えしますということで。


「じゃ、歌って終わりにしようか」


『はい!』


 俺が笛を取り出したところで、スウィーたちが集まってくる。

 トゥルーやセルキーたちも歌う気まんまん……

 ルピ、レダ、ロイ、ラズもみんなで歌うの大好きっぽいんだよなー。


【古代童謡<水平線に掛かる虹>が選曲されました】


 うっ、新曲でちょっと緊張する。

 あ、でも、ペースはゆったりっぽいし、これならいけそう?


「「「キュ〜キュキュ〜♪」」」


「〜〜〜♪」


 セルキーたちの合唱が響き、それを追いかけるようにスウィーのソロソプラノが響く。

 そして、


『ラ〜ラララ〜♪』


 ミオンの歌声、やっぱりすごいよな。

 ちらっとコメント欄に目をやると、さっきのおやすみの話はもうどこへやら……


 ………

 ……

 …


<はいー、お疲れ様でしたー。2人とも良かったですよー>


「『お疲れ様でした』」


 ヤタ先生の声が聞こえて、無事ライブを乗り切れたことにほっとする。

 コメント欄をずっと見ててくれたわけだけど……


「苦情? っぽいのってありました?」


<わけのわからないことを言ってる人が二、三人いましたがー、あっという間に流れてしまってましたねー>


 ヤタ先生曰く、変なコメントは視聴者さんが流してくれてたらしい。でも、しっかりウェアアイディでブロックしたので、今後は心配しなくていいとのこと。


『ありがとうございます』


「助かりました」


 なんかもう気にするだけ馬鹿馬鹿しいので、その手の話は無視することにしよう。

 そんなことよりも、


「ミオン。終わったし、こっち来るよね?」


『はい! 今から行きます!』


<ではー、私はこのへんでー。明日は来ませんがー、月曜の集合時間には遅れないようにしてくださいねー>


 と言い残して、ヤタ先生はログアウト。

 月曜からの合宿、いつも通りの登校時間で余裕で間に合うけど、美姫を連れていかないとだし、忘れ物ないようにしないと。


「〜〜〜?」


「おっと、ごめん。ミオンがこっちに来るって言ってるから……」


 ログインしたら屋敷のはずだし、迎えにいってもらおう。

 神樹の樹洞を通るからスウィーは必須だとして、あとはシャルとレダかな。


「3人で迎えに行ってくれる?」


「〜〜〜♪」「ニャ!」「バウ」


 サムズアップしたスウィーがレダに乗って走っていくのを、シャルが必死になって追いかけていく……


「キュキュ?」


「そうだね。いいお魚獲ってきてくれる?」


「キュ〜!」


 任せてとトゥルーが走っていって、海へと飛び込む。

 その後を追うように、年長のセルキーたちがついていったし、こっちも安心かな?

 じゃ、ミオンが来るまでの間に、鍋もデザートも新しく作るとするか……


 ………

 ……

 …


「どう?」


「美味しいです」


 ミオンのために海鮮トマト鍋を作り直し、そこにトゥルーが獲ってきてくれたセリオラ(ブリ)を投入。獲れたて新鮮なので、ほぼブリしゃぶってぐらいで食べられる。


「キュキュ〜♪」


「ありがとうな」


 トゥルーやセルキーたちはさっきも食べてたけど、まだまだ食べられるってことで参加。

 見かけによらず結構食べるんだよなあ。アザラシもかなり食べるらしいし、やっぱり関係あったりするのかな?


「あ、デザートのゼリー、ルモネラのやつ、ちょっと作り方変えてみた」


「はぃ」


「〜〜〜♪」


 スウィーがさっそく催促に来たんだけど、ちゃんと分けてあげるの優しいよな。


「クルル〜」


「ラズはそのままの方が好き?」


「クル〜♪」


 小ぶりのルモネラをそのまま渡すと、さっそくかぶりついて美味しそうに食べるラズ。

 さて、今日はあとは……


「ニャ! ニャニャ!」


「え? 雨降ってくるの?」


「ぇ?」


 ケット・シーたちが急に雨が来ると騒ぎ始め、セルキーたちが慌てて料理を倉庫の中へと運び始める。

 そんな急に降って来る? と思ってると、島の中央の方から分厚い雲が……


「うわ、マジだ! ミオン、中へ入ろう!」


「は、はぃ!」


 一通り、外に出していたものを開いている方の倉庫へと片付けて、その中から外を眺める。

 最初はポツポツといった感じだった雨は、すぐにザーザーと激しくなって、これはちょっと動けなさそうかな。


「キュキュ〜」


「ニャニャ……」


 セルキーたちは雨自体は別に気にしないんだけど、海が荒れるのは嫌とのこと。魚を獲るのも大変になるし、オリーブやルモネラを採りにもいけないもんなあ。

 で、ケット・シーたちはさらにテンションが低い。泳げないわけじゃないけど、濡れるのはやっぱり嫌なんだろう。猫だし。


「……洗い物でもするかな」


「ぁ、手伝います」


 ミオンやセルキーたちと食器を洗う。

 軽く水を切ったあとは、ミオンが<乾燥>の魔法で乾かしてくれる。


「ぁ、元素魔法と基礎魔法学があがりました!」


「おめでとう」


「「「キュ〜♪」」」


 ミオンのスキルレベルも順調に成長中。

 一番レベル高いのが裁縫で、これはギリー・ドゥーたちのおかげでもあるかな。


「はぃ」


 綺麗に拭かれたテーブルにパプの葉茶が2人分。

 椅子に腰掛けて、激しい雨が降り続く海を眺める。


「〜〜〜♪」「「「〜〜〜♪」」」


 テーブルに座ったスウィーとフェアリーズが即興で歌い始め、


「ル〜ルルル〜♪」


 ミオンもそれに合わせるようにコーラスを口ずさむ。

 それをのんびりと聞いていると、降り続く雨も悪くないなと思えてくるのが不思議だ。


「ん」


「ワフン」


 足元にいたルピを抱き上げて、もふもふ具合を堪能していると、その心地良さに眠くなってきて……


「ショウ君。今日はそろそろ終わりにしませんか?」


「あ、うん。そうだね」


 屋敷へは明日の夜、ログアウト前に戻る予定。

 それまではこっちでいろいろやる時間があるし、今日はこれぐらいでいいか……

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