木曜日

第429話 水路の先、森の奥

「今日はちょっと早いけど、ここまでにしようか」


『あ、はい』


「いいんじゃないでしょうかー」


 ヤタ先生からのオッケーも出たので問題なしと。

 夏休みの宿題、俺もミオンも今日あと1時間もやれば終わるけど、明日、余裕を持ってでいいと思う。

 ちなみにベル部長は、


「私のことは気にしなくていいわよ」


 と手をひらひらと。まあ、ヤタ先生に監視されて、サボってた分を挽回中なんだけど。

 今日の昼は美姫も奈緒ちゃんところに遊びに行ってるし、特に急ぐ用事もないんだとか。

 うちのギルドの支部との連携をちょっと相談したかったんだけど……急がなくてもいいか。


「じゃ、行こうか」


『はい!』


 ………

 ……

 …


「よっと、おはよう」


「ぉはよぅ」


「ワフ!」「クルル〜」


 屋敷の寝室の新しいベッドは正方形に近いキングサイズ。

 俺とミオンで別のベッドを用意しようとしたんだけど、


「ライブでベッドが2つ並んでるのが映ると変に思われませんか? ベッドは1つでいいと思います」


 そうニッコリと指摘された。

 確かにそうなんだけど……と悩んだ結果、ルピやラズも一緒に寝られるサイズを置くことに。

 まあ、実際、間にルピとラズが挟まってるので、うん……


「「「〜〜〜♪」」」


 大きなつるかごに亜魔布を敷いたベッドで寝ていたのはスウィーとフェアリーズ。

 スウィー以外はちゃんと起きて挨拶してくれたけど、女王様はまだ夢の中。


「今日はどうしますか?」


「水車小屋を作る場所の確認と、そのまま水路の下流を見に行くよ。海まで繋がってるはずだから、その確認かな。ミオンも一緒に来る?」


「はぃ!」


 じゃあ、レダとロイに護衛についてもらうかな。

 あと、パーンを呼んできてもらおう。ウリシュクの集落の崖下にあたる部分が見えるはずだし、何か知ってるかもだし。


「ルピ。ちょっとお願いしていい?」


「ワフン」


 ちなみに、レダとロイはバーだった場所に引っ越してもらっている。

 バーカウンターを取り払うと、結構広いスペースになった。これで、まだ家族のところにいる、兄弟たちが来ても大丈夫なはず。


「ワフ!」「「バウ」」


 正面玄関の扉を開けると、ルピたちが飛び出していく。

 俺は装備はとりあえずいつものでいいけど、ミオンは初心者装備のままなんだよな。


「そういえば神聖魔法の本って装備可能?」


「ぁ、はぃ。持ってるといいみたいですけど、手が塞がっちゃいますね」


「うーん、それもちょっと考えものだよな」


 ミオンは武器を持って戦うことはないだろうけど、それならそれで短杖ワンドとか持つ方がいい気がするし。

 あー、あとナットんところで取れる水晶と魔銀ミスリルで神聖魔法に+1補正のアクセ作れるんだっけか。

 あ、これもギルドから依頼出せばいいのか。


「〜〜〜……」


「スウィーちゃん、ぉはよぅ」


 寝起きの顔でふらふら飛んできたスウィーがミオンの左肩へと。

 ミオンから手渡されたドライグレイプルをもぐもぐ。今日の予定を話して、なんとなく頷いてるから一緒に来るつもりなんだろう。


「ワフ」


「リュ〜」「ニャ〜」


「お、パーンにシャルも。ちょっと今から水路の先の方に行くから、一緒に来てくれるかな?」


「リュ!」「ニャ!」


 どんと胸を叩くパーンと敬礼を返すシャル。今回はパーティだけでいいかな。


「じゃ、行こうか」


「はぃ」


 ………

 ……

 …


 水車小屋の予定地は、前に向こう側に渡った場所の少し上流。

 パーンたちがすでに草むしりを終えて、いつでも建築オッケーな状態にしてくれてある。


「リュ?」


「そうだね。木材を集めて小屋を作ってから水車作りかな」


 これも夏休みの間に終わらせておきたいところ。


「よし。じゃ、下流へ向かおうか」


「はぃ」


 屋敷側に沿って下流へと進むと行き止まりになってしまうため、まずは向こう側、ギリー・ドゥーたちの森側へと渡った。


「クロちゃんたちは呼びますか?」


「んー、まあ、困ったら?」


 この森が河口付近まで続いてるなら、聞くこともあるかも?

 とりあえず、地形ぐらいは把握しておきたいかな。


「レダ、ロイ。一応、警戒お願いね」


「「バウ」」


 レダに先行してもらい、ロイは後ろを。

 川辺を進む分には視界は良いし、さくさく進もう。


「少し曇ってきましたね」


「夜は雨かもなあ。まあ、今日はアズールさんが来るって言ってたし」


「あ、そうでした」


 来るまでの間は、ライブで言われたルピたちの木彫りを作ってみるか。

 ミオンも裁縫スキル上げたいって言ってたし、フォローできるといいんだけど。


「っと、あの先で合流してるな」


「そのまま海に繋がってるんでしょうか?」


「多分ね」


 俺たちが来た方は支流だよな。

 本流の方は山小屋がある盆地の泉の水も流れ込んでる気がする。


「パーンのところの崖下って、あの向こう側のあたりになるのかな?」


「リュ」


 合ってるらしい。

 上からモンスターを何匹か見たことがあるんだとか。


「エリア的には別っぽいなあ」


「渡ってみますか?」


「いや、今日は様子見だけにするよ。とりあえず海まで出てみよう」


「はぃ」


 広くなった川辺を西へと進む。

 川幅はさらに広くなり、両岸共に見通しが良くなってきて、


「お、海だ!」


「綺麗です……」


 南側の海と違って、ちょっと寂しさを伴う感じの海だけど、まあ、今日の天気がイマイチなのもあるか。

 もう少し進んで海岸まで行ってもいいんだけど、


「戻る時間もあるし、そろそろ帰ろうか?」


「はぃ。お天気も……」


 ミオンが見上げる先の空。

 出てくる時よりも雲が分厚くなってきてるし、これは早々に降り出すかもしれない。


「バウ」


「ん? ロイ? って、いつの間に……」


「アトちゃん」


 いつの間にかロイの側にいたのは、ギリー・ドゥー三姉妹の末っ子アト……らしい。

 ミオンの呼びかけに答え、目の前まで近寄ってぺこりと頭を下げる。


「どうしました?」


「〜〜〜?」


「ゥゥ、ゥゥ?」


「この間渡したエクリューの毛を加工できたから、どういう服にしたいですか? って」


 ミオンが驚いてるけど、俺もそんな早くできたのってところに驚いてる。


「えっと、夜に一緒にでどうですか?」


「あ、そうだね」


 これからも気軽に来てもらえればと思うし、他のギリー・ドゥーたちもミオンに会える機会になれば。

 で、そのついでに、森の奥のことをもう少し詳しく聞こう……

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