第398話 あれこれ同時に動き出す

「ただいま」


「おかえり、兄上!」


 玄関を開けると美姫が駆けてきた。

 手に持っているタブレットには通知表が表示されている。終業式ごとに、こうやって俺に『すごい成績』を見せてくれるお約束だ。


「お前なあ。見なくてもほぼ満点だろうに……」


「一学期は体育も良かったのだぞ! これもIROのおかげかもしれん!」


 鞄を置いて差し出される通知表を見ると見事に満点が並んでいる。若干苦手な体育も前回よりいい点数だ。


「ん、よくやったな」


「むふふふふ……」


 ご褒美というか頭を撫でてやると嬉しそうにしてくれるんだよな。

 そこだけ妹らしい可愛さがある。いや、中三なんだから、もう少し大人っぽくなって欲しいところだけど。


「親父にも送っとけよ」


「うむ!」


 改めて部屋で着替えてリビングへと。

 時間は午後2時か……


「で、お前、通知表の他になんかあるのか?」


「合宿の予定と飛行機のチケット!」


「はいはい……」


 別に今でなくてもいいだろと思うけど、気になってたんだろうな。

 俺のタブレットから美姫のタブレットへと合宿のスケジュールとチケットを転送する。


「うむうむ」


「そういえば、真白姉の予定って聞いてるか?」


「姉上は姉上で旅行に行くそうだぞ。シーズン殿も一緒だそうだ」


 ああ、『白銀の館』の人で真白姉をIROに引き摺り込んだ人か。

 なんかもうずっと任せっきりになってて申し訳ないな……


「じいちゃん家への帰省には?」


「それには戻ってくると言っておった」


「まあ、ばあちゃん怖いしな。あ、そうだ! ミオンを連れて行くかもなんだよ」


「ほほ〜う」


 ニヤニヤする美姫だが、ここで言い返したところで意味はない。

 それよりも、


「お嬢様をど田舎に連れてくってどう思う?」


「ふむ。初めのうちは楽しかろうが、そのうち暇になってしまうのではないか?」


「なんだよな。大自然以外は何もないし……」


 だから、俺は手伝いはなんでもやってたんだけど。

 真白姉は早々に飽きて川遊びに行ってたし、美姫は本ばっかり読んでたし。

 そんなところにミオンが来て大丈夫なのかっていう……


「やはりミオン殿から行ってみたいと言われたのか?」


「そう。一応、田舎で何もないよって話はした……はず」


「まあ、我と姉上でフォローしよう。それにミオン殿が居れば、姉上も多少は大人しくなろうて」


「……頼む」


 微妙に不安だけど……


***


「ちわっす」


『ショウ君』


 バーチャル部室にはミオンだけ。

 セスは先にログインしたし、ベル部長ももうIRO中っぽいな。


「ごめん。一応、通知表だとか合宿の話だとか、親父に連絡しとかないとでさ」


『いえ、大丈夫です。私もさっきまで母と話していて、今来たところですから』


「何か言われたの?」


『特にはないですよ』


 とニッコリされるとそれ以上聞けなくなるんだよな。

 まあ、テストの点も良かったらしいし、所見を書いてるのはヤタ先生だし、怒られるようなことはないよな。


「じゃ、いってきます」


「はぃ。いってらっしゃい」


 ………

 ……

 …


【PV採用についての設定を行いますか?】


「おっと、これか。『はい』っと」


 現れた選択肢から【都度選択】を選ぶ。


「ワフ!」


「っと、もうちょっと待って」


 ルピがロフトベットの下で呼んでるけど、その前にミオンへの限定配信を開始。

 ついでに、次回から同じ設定で自動配信するようにセット。


『ショウ君、ルピちゃん、こんにちは』


「ようこそ、ミオン」


「ワフ〜」


 さてとロフトベッドを降りると、転送箱の水晶が光ってる。

 昨日、いろいろ送ったお礼が来てるのかな。


「ご飯はちょっと待ってね。ああ、スウィーたち呼んできてくれる?」


「ワフッ!」


 玄関扉を開けると、勢いよく走っていくルピ。

 レダとロイが慌てて追いかけて行くのが微笑ましい。

 その姿を見送ってから転送箱を開けると、中には手紙と……これは?


『リンゴですよね?』


「だよな。一応、鑑定してみるよ」


【レッドマルスの実】

『レッドマルスの木になる実。果肉はそのままでも、調理しても美味。

 料理:果肉、果汁を食材として利用可能』


 ずっしりと重くていいリンゴ。

 これってPVで巨人族が採集してたやつかな?


「〜〜〜!」


「スウィー早っ! はいはい、これ食べたいのね」


 うんうんと激しく頷くのはいいんだけど、


「3個あるし、他のみんなと分けような」


「「「〜〜〜♪」」」


 その言葉にフェアリーズからも歓声が。

 ルピと俺で1個、レダとロイで1個、スウィーとフェアリーズで1個かな。


『ショウ君、その前にお手紙を』


「ああ、そうだった。もうちょっとだけ待って」


 えっと……


『ショウ様


 昨日はまた多くの甘味、そして、お酒をいただき、ありがとうございます。

 まずは、ご要望いただいた竜の都で取れる果実、レッドマルスの実を送らせていただきます。

 同梱した分とは別に、保存箱の方にも一箱分を置いてありますので、ご賞味ください。


 次に、ご相談いただいたピアノの件ですが、まずは私の懇意にしているドワーフに見せたく思います。

 ご都合の良い日時を指定いただければ、アズールが受け取りに伺いますので、よろしくお願いします。


 最後に、ショウ様によるギルドの設立には、我々竜族が全力で支援いたしたく思います。

 その代わりと言ってはなんですが、引き続き白竜姫様への差し入れをお願いできればと……


 引き続き、よろしくお願いいたします。


追伸

 以前お話があった南方へとつながる転移魔法陣について、アズールが興味を示しております。

 ショウ様のお力になれそうであれば是非とのことなので、アズールがピアノを受け取りに行った際にご説明いただければと思います』


 ピアノを取りに来てもらうのは……明日っていうとライブに被りそうだし、明後日、木曜日の夜でお願いしよう。

 ギルド設立の件もオッケーだけど、これはちょっとタイミングを考えないとだ。

 で、それはいいとして、例の南洋なんちゃらにつながる転移魔法陣か……


『どうしますか?』


「ニーナに場所を教えてもらえれば、アズールさんが飛んで見に行くとかしてくれるかな?」


『なるほどです』


 そんな都合いいお願いしていいのかなと思うんだけど、アージェンタさんがせっかく言ってくれてることを無下にするのもなあと。


「ワフ」


「ああ、ごめん。返事はご飯食べてからにしようか。俺たちはリンゴ、レッドマルスはデザートにしような」


 地下の大型転送室に来てるレッドマルスも取りに行って、そっちはパーンやシャルたちにも味見してもらおう。

 ああ、白竜姫様にはアップルパイ作って返すのもいいかもだなあ……

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