妖精の楽園
火曜日
第397話 夏休み!
「それでは皆さんー、楽しい夏休みをー」
ヤタ……熊野先生がそう告げて、教室全体に開放感が広がる。
今日はテスト結果と通知表を受け取って、ホームルームがあって終わりっていう楽な日。もちろん赤点がなければ、だけど。
「ふー、やっと夏休みだ!」
ナットも席を立って大きく伸びを。気持ちはわかる。
「陸上部は今日部活あんの?」
「合宿の説明があった後、希望者は自主練していいって話だな」
ってことは、こいつは自主練するんだろうな。
俺もちょっと体を動かしたい気分なんだよな。テスト期間中は体育なかったし。
「じゃ、次の登校日にな!」
「おう」
俺の返事をほぼ聞かずに走っていってしまうナット。
それに……いいんちょに声かけてから行きゃいいものを。
で、「一言ぐらいあるんじゃないの?」って顔のいいんちょとミオンがやってくる。
「落ち着きがないわねえ……」
「いいんちょも今日は部活?」
「ええ」
弓道部も陸上部と同じで、今日は合宿の説明と自主練だそうだ。
うちも合宿の説明があるんだろうし、どこも同じなのかな。
「じゃ、また登校日にね」
「ぅん」
手を振り合って別れる二人。
ミオンといいんちょも仲良くなったよなと。
……未だに俺が変なことしたら連絡しろって言われてるのかな。
………
……
…
「やっと夏休みね!」
「ちわっす」
『こんにちは』
清々しい顔でゲーミングチェアへと座り、いそいそとVRHMDを被るベル部長。
期末テストも問題なしだったってことかな?
「テストなら問題なしよ。心置きなく合宿に行けるわ」
そう言ってニヤリと笑うベル部長。
俺、そんな顔してたかな……
『合宿の説明はヤタ先生が来てからですか?』
「ええ。といっても、運動部みたいに細かくスケジュールがあるわけじゃないわよ」
そんな話をしてると、ちょうどヤタ先生が現れた。
「揃ってますねー」
席についたヤタ先生から配られたのは、合宿のスケジュールと飛行機のチケット。俺には美姫の分も含めて2枚分。
「チケットは確保した状態なのでー、それぞれ支払いをしてくださいねー」
「じゃ、私は自分とセスちゃんの分を払うわね」
「どもっす」
前に話して決めた通り、俺とミオンの分は俺が決済を終えて確定。
チケット自体は俺から美姫に渡すことになった。
『先生。スケジュールの中身が……』
「はいー。電脳部の合宿は当日のお天気次第ですー」
スケジュールの中身、ほぼ自由行動。
初日の集合時間、飛行機に乗る時間、チェックイン時間。最終日のチェックアウト時間、飛行機に乗る時間しか書いてない。
「マジっすか……」
「学校から空港まではー、ミオンさんが車を出してくれるということですのでー、遅刻しないようにしてくださいねー」
「ああ、椿さんが送ってくれるんだ」
『はい』
帰りも空港まで迎えに来てくれるし、それぞれ家まで送ってくれるとのこと。めちゃくちゃありがたい。
ほぼ自由行動なのは、あんまりきっちり日程を決めてても、結局、天気に左右されることが多いからだそうで。
天気が良ければ観光したり海へ行ったりで、悪ければこもってゲームっていう……やるのは当然IROになるんだろうけど。
「あ、そうだ。そろそろベル部長とコラボとかダメですか?」
前にちょっと考えてたコラボの件。
ミオンがベル部長の『魔女の館』で実況する話とかどうかなと。
「そこはー、きっちりと運営さんに確認してからの方がいいですねー。ミオンさんは公式女神となったわけでー、ショウ君以外とのお付き合いは慎重にした方がいいかとー」
「それに、私のところに出ると、他のバーチャルアイドルからも『出て欲しい』って希望が殺到するかもしれないわよ?」
「『あ……』」
俺とミオンはセットになってるのを承知の上でだったけど、ベル部長、魔女ベルとまで繋がりがあるとは思わないよな。
『すいません、部長……』
「気にする必要はないわよ。それに、前みたいに私がお邪魔する方だったら、許可が出るかもしれないでしょ?」
「確かに……」
うちの『ミオンの二人のんびりショウタイム』に来たことはあったし、そっちはオッケーの可能性もあるか。
自分のチャンネルに呼べないとメリットもそんなにないだろうし。
「そうですねー。それでも確認は取らないとですよー」
「『はい』」
コラボしていいかどうかって話、もっと早く気づいて聞いておけば良かったなあ。
椿さんから連絡してもらって、その返答次第でということに。
やってもいいなら、夏休み中にやりたいところだけど。
「ところで、二人は今日はお昼はどうするの?」
「えっと、部活が昼前まで続くなら、購買で何か買って食べようと思ってましたけど。今日はもうこれで終わりっすか?」
「合宿の話もできたのでー、今日はこれで終わりでもいいですよー。みなさんとはバーチャル部室に行けばいつでも会えますしー」
ってことだけど、どうしようかな?
『お昼までまだありますし、少しIROしませんか?』
「残念だけど、まだメンテナンス中みたいよ」
「『あ』」
公式ページを見せてくれる部長。
そういや、魔王国アプデは今日の午前中にメンテナンス挟んで適用されるんだっけ。
「ではー、ミオンさんの翡翠の女神の衣装を見てみませんかー? もう、いただいてるんですよねー?」
「それは私も見たいわ!」
『は、はい!』
***
メンテは昼まで続くらしいのでスタジオに来ている。
「そういえば、セスちゃんって朝はあまりログインしないわね。ゲームしすぎないようにってこと?」
「あー、あいつは寝起きがすっごく悪いのと、午前中は俺の買い物とかについてくる感じなんで」
「つまり、ベルさんは午前中からゲームしてるんですねー」
そう突っ込まれてそっぽを向くベル部長。
それはいいとして、
『お待たせしました』
翡翠の女神の衣装で現れるミオン。
この衣装、着る時に特殊な操作が必要で、それは俺以外には見せちゃダメらしい。
「綺麗ね!」
「いいですねー。すごく似合ってますよー」
ベル部長もヤタ先生もいろんな角度から翡翠の女神となったミオンを見てるんだけど、
「やっぱり、どうやっても際どい場所が見えないようになってるのね」
「よくできてますねー」
そういうのは俺がいない場所でやってくれないかな!
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